西郷隆盛の漢詩「感慨」に見る維新後の思いと漢詩の作法

日本の漢詩

西郷隆盛のあまりに有名な「感慨」を題材として漢詩を解説します。この漢詩は最後の句があまりにも有名なのですが、全体を見たことがある人は少ないでしょう。

内容も平易であるので、漢詩の入門用に解説したいと思います。

西郷隆盛の漢詩「感慨」の全体と読み方、意味は

感慨

幾歷辛酸志始堅

丈夫玉碎恥甎全

我家遺事人知否

不爲兒孫買美田

たったこれだけですが、これだけ見てわかる人は現代人には少ないでしょう。

西郷隆盛の「感慨」の読み方

このため、日本語の特徴として、読み下しの手法があるのでこちらを紹介します。よく、詩吟などで朗々と奏でているのはこちらの方です。

感慨(かんがい)

幾たびか辛酸を歴(へ)て 志(こころざし)は始めて堅し

丈夫(じょうぶ)は玉と砕くるとも甎(せん)の全きを恥づ

我家の遺事 人 知るや否や

児孫の為に美田を買わず

どうですか、これならなんとなくわかってくるでしょう。でもわからない語句もありますよね。西郷隆盛は幕末から明治の方ですので、基礎的な漢字、漢語の知識は我々の及ぶところではありません。

それでも短いし、比較的簡単な語句を使っているのでわかり易いのでしょう。特に最後の句は聞いたこともあるのではないでしょうか。

西郷隆盛の「感慨」の意味は次の通りです

「感慨」は解説不要ですよね。

「丈夫」は立派な男子です。

「甎(せん)」は難しい漢字ですよね。敷瓦と言って丸く焼いて敷石に使うものです。頑丈なものです。

「遺事」はそんなに難しくないでしょう。伝えられている事柄ですね。

これで大体意味が分かったことと思います。私なりに意味を書くと次のようになります。

何度も辛い体験を経て、その志はやっとのことで堅固になるものです。

立派な男子たる者は玉のように砕けることはあっても、敷石のように長くつつがなく生きることを恥じるものです。

我が家の伝えは知っていますか。

子や孫のために良い田んぼを買って備えるようなことはしない。

この最後のところが有名ですよね。元の漢字もついでに覚えておくとよいですよ。

漢詩「感慨」の解説と構成について解説します

意味と内容がわかってきましたので、漢詩の構成の解説をしていきたいと思います。詩ですから解説書みたいに内容がわかったら終わりというものではありません。

内容とか構成を味わうべきなのです。いちいち見返すと大変なのでここにも再掲しておきます。

感慨

始堅

甎全

知否

美田

この詩の構成はどのようなものでしょうか。一句七言で四句ですので七言絶句と考えるのが普通です。たいていはそうだと思いますが、七言絶句にはそれなりの規則がありますので、確かめてみましょう。

漢詩「感慨」の韻を調べてみましょう

韻はどのようになっているかを調べます。七言絶句であれば、一句目、二句目、四句目の末字が同一の韻になっているはずです。ここで漢和辞典を使います。

一句目「堅」平字の先となっています。二句目の「全」も同じです。「田」も同様で平字の先という同一の韻字になっています。三句目の最後の「否」仄字になっています。

脚韻は一句目、二句目、三句目は平字の先三句目は仄字ですからルールに則っています。

次に、それぞれの句の二字目、四字目、六字目を調べます。

一句目は、「歴」は仄字、「酸」は平字の寒、「始」は仄字。二句目、「夫」平字の虞「碎」仄字「甎」平字の先。三句目、「家」平字の麻「事」仄字「知」平字の支。四句目、「爲」仄字「孫」平字の元「美」仄字

何でこんなことを列挙したのかと言いますと。これもルールがあるのです。

最初のルールは二六対と言って二字目と六字目は同じ平仄、ということです。それぞれ見ていくと合致していますよね。

次のルールは二四不同と言って二字目と六字目は違う平仄ということです。これもあってますよね。

それからもう一つ、反法、捻法というルールがあります。それぞれ二字目を一句目から並べると歴、夫、家、爲となって、仄字、平字、平字、仄字という順番になります。

一句目と二句目はひっくり返って反法二句目と三句目は平字同士ですので捻法三句目四句目は反法というつながりになっています。

これで最低限のルールはクリアーしていることがわかりますよね。こんな大変なルールと思うかもしれませんが、実はこれも慣れなのです。この詩の中でポイントとなる文字の平字は〇、仄字は●、韻字である「先」を示しました。

幾●辛〇志●

丈〇玉●恥〇

我〇遺●人〇●

不●兒〇買●

漢詩「感慨」についてのエピソード

この「感慨」は明治2,3年ごろの作品と言われています。大久保利通に送った手紙の中に添えられた漢詩です。

明治維新が成って、政府の要職に就いた人たちが豪奢な生活に流れがちになることへの警告ともとられています。西郷隆盛の飾り気のない性格が表れていますね。

また、西郷南洲遺訓集のその5に次のようにこの詩を紹介しています。

五 或る時「幾ビカ歷テ2辛酸ヲ1志始テ堅シ。丈夫玉碎愧ヅ2甎全ヲ1。一家ノ遺事人知ルヤ否ヤ。不下爲メニ2兒孫ノ1買ハ中美田ヲ上。」との七絶を示されて、若し此の言に違ひなば、西郷は言行反したるとて見限られよと申されける。

西郷隆盛の漢詩「感慨」に見る維新後の思いと漢詩の作法のまとめ

西郷隆盛の有名な句が入った「感慨」の解説とその言わんとすること、そしてこの漢詩の作法、今回は七言絶句についてですが、を解説しました。

漢詩と言えば中国の唐詩というのが通説ですが、実は、1400年も前の詩よりも150年前の我々の祖先の残した詩の方が、我々にとっては語句の点でも、発想の点でも、やはり分かり易いと思っております。

しかも、その当時の漢詩のレベルは現代と比べれば極めて高かったので、日本の漢詩に親しみ、作風を学んでみるのも良いかと思います。更には、歴史にも興味をもたれることも良いかと思います。

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