弓道アニメの「おかしい」は、競技弓道か戦闘表現かで基準を分けると、かなり正確に整理できます。
『艦これ』では弓道上の具体的な指摘が実際にありましたが、確認できる資料だけで「弓道家の集団が組織的に監視した」とまでは言えません。一方、『ツルネ』は射形だけでなく、早気、ゴム弓、息合い、体配まで物語の原因と結果に組み込んでいます。『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト+3J-CAST ニュース+3『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト+3
この記事では、2026年8月時点で確認できる全日本弓道連盟の現行競技規則、『艦これ』騒動当時の記事や保存されたSNS投稿、『ツルネ』公式資料を照合します。
「弓道警察」とは何だったのか、『艦これ』では何が指摘されたのか、そして『ツルネ』はなぜ弓道経験者にも違って見えるのか。実際に弓を引く立場から、事実と私見を分けて見ていきます。
弓道アニメは何がおかしい?現代弓道の基準は「形」だけではない
高校や大学などの現代競技弓道を描く作品なら、手足の形だけでなく、射法、体配、競技運行、安全まで含めて見る必要があります。
全日本弓道連盟は、弓射の基本となる射法を「足踏み」から始まる射法八節として説明しています。八つの動作は別々のポーズではなく、相互につながった一つの流れとして行うものです。全日本弓道連盟
そのため経験者がアニメを見ると、矢が的へ向かって飛んだかだけでは終わりません。
足踏み、胴造り、弓構え、打起し、引分け、会、離れ、残心までのつながりに目が向きます。弓構えでも、右手を弦へ掛け、左手の手の内を整え、物見を定めるという過程があります。全日本弓道連盟
近的28メートル、遠的60メートルは現行規則に明記されている
2026年8月時点で全日本弓道連盟が公開している競技規則は、令和7年、つまり2025年5月14日改定版です。全日本弓道連盟+1
現行規則第22条では近的の射距離を28メートルとし、1射場で行射する人数を5人以内としています。近的の的には直径36センチの霞的、36センチまたは24センチの星的が規定されています。全日本弓道連盟
遠的は第30条で射距離60メートルと定められ、1射場に一つの的を置き、立射で行います。的には100センチ、79センチ、50センチの霞的や100センチの得点的が規定されています。全日本弓道連盟+1
数字だけを見ると簡単ですが、ここで一つ注意が必要です。
「弓道には一つの絶対的な大会運行しかない」と考えるのも正確ではありません。
現行規則第15条は、個人・団体とも射場ごとに1番から順序に従って行射するとしています。その一方で、競技場を複数の射場に分けた場合には、第二射場の1番が第一射場の1番より先に射離しても差し支えないと説明されています。全日本弓道連盟+1
さらに第40条では、原則として前の選手より先に射離した矢は無効となりますが、短時間で競技を進める必要がある場合は、大会要項への明記や事前の宣告によって「順不同」とすることも認めています。全日本弓道連盟
つまり、アニメの競技場面を一瞬だけ切り取って、「前の人より早いから間違い」と判断するのも危ういのです。
大会の種別、射場の分け方、坐射か立射か、特別規定があるかまで確認して、初めて競技運行として評価できます。
私は、弓を使うアニメを見る際には、最初に次のように作品の前提を分けると分かりやすいと考えています。
作品で描かれる弓 主に確認したい点 避けたい早合点
高校・大学などの競技弓道 射法八節、体配、競技運行、安全 一大会の運用を全大会へ当てはめる
歴史物の弓術 時代、流派、用途、装備 現代競技弓道だけを正解にする
ファンタジー・戦闘作品 作品設定、動作の説得力、演出 全弓連規則を直接適用する
弓道そのものが主題の作品 射法、稽古、心理、間合い、体配 静止画の姿勢だけで評価する
この区別は小さなことに見えますが、実は『艦これ』をめぐる論争を理解するうえで、とても重要です。
全日本弓道連盟の競技規則そのものが、適用対象を全弓連や加盟団体などが主催・主管する競技と定め、他の主催者が大会を開く場合には、その規則を採用する旨を明記する必要があるとしています。まして架空世界の戦闘場面まで拘束する規則ではありません。全日本弓道連盟
弓道警察とは?『艦これ』で何が起きたのか
「弓道警察」は公的な組織名ではなく、創作物の弓の描写を細かく批評する人々を表すネット上の俗称として理解するのが適切です。
そして『艦これ』をめぐって重要なのは、「指摘そのものがなかった」とすることでも、「大勢の弓道家が組織的に作品を取り締まった」とすることでもありません。
確認できる資料からは、個人による具体的な技術批評があり、それが転載され、複数の人々による騒動として語られていった流れが見えてきます。オレ的ゲーム速報@刃+2J-CAST ニュース+2
2014年3月、テレビ放送前から加賀の弓が話題になった
『艦これ』のテレビアニメが放送されるより前の2014年3月、すでにアニメ化に伴って公開された加賀の弓姿へ、弓道経験者から指摘が出ていました。
当時のSNS投稿を保存した二次資料には、2014年3月23日付で、加賀の構えについて馬手、矢の扱い、口割、物見、弓手の小指、足の状態などを問題視する投稿が残されています。掲載記事自体は翌3月24日に公開されました。オレ的ゲーム速報@刃
ここは資料の扱い方に注意したいところです。
現在確認できるのは、当時の投稿を収録したニュース系ブログという二次資料です。したがって、「この時点で全国の弓道経験者から一斉に批判が起きていた」とまで広げることはできません。
分かるのは、少なくともテレビ放送開始より前に、加賀の弓姿を現代弓道の観点から細かく見る人がいた、ということです。オレ的ゲーム速報@刃
この違いは大切です。
ネット上では、一人の強い言葉が何度も転載されると、百人が同じことを言っているように感じる場合があります。しかし「投稿の拡散量」と「独立した批判者の人数」は同じではありません。
2015年1月、『艦これ』第1話の赤城に10か所の指摘
テレビアニメ放送後には、赤城が弓を使う場面がさらに大きな議論となりました。
2015年1月12日のJ-CASTニュースは、赤城の射について、アニメ画像へ10か所の注釈を加えた画像が出回ったと報じています。取り上げられたのは、爪揃え、取り懸けの位置、中指と弽の帽子の関係など、弓道を経験しなければ気付きにくい細部でした。J-CAST ニュース
一方、同じ記事では「赤城が行っているのは現代競技弓道ではなく弓術として見るべきではないか」という反論も紹介されています。
しかも『艦これ』の戦闘表現では、空母を擬人化した人物が放ったものが航空機へと変化して攻撃するという、明らかに現実の競技弓道とは異なる設定です。J-CAST ニュース
ここで既に、論争の本質が見えてきます。
指の位置が現代弓道と違うかどうかと、その架空戦闘場面が作品として成立しているかどうかは、別の問いなのです。
2015年1月10日の転載では「複数の人」に見える表現が使われた
当時の空気を知るうえでもう一つ興味深い資料があります。
GIGAZINEが保存している2015年1月10日のSNS投稿には、赤城の指摘画像を「拾い物」としたうえで、複数の面倒な人々から目を付けられている、という趣旨のコメントが残っています。GIGAZINE
これは、転載者自身が作成した検証画像ではありません。
にもかかわらず、転載された時点では批評主体が複数の「人たち」として表現されています。
私はここに、「弓道警察」というイメージが膨らみやすかった一因を見ることができます。
ただし、この一投稿が集団イメージを作った原因だと断定することはできません。確認できるのは、少なくとも拡散の途中で、一枚の指摘画像が複数人による批判であるかのような言葉とともに流通した例があった、というところまでです。GIGAZINE
「最初の弓道警察は誰か」は断定しない方が正確
この騒動について後年作られたまとめには、2015年1月8日朝の特定投稿を「弓道警察」という語の発端として詳しい時刻まで示すものもあります。
しかし、元投稿や当時の表示状態を現在も完全な一次資料として確認できるとは限りません。
そのため本稿では、「何時何分の誰の投稿が最初だった」とまでは断定しません。
一方、2015年1月12日の同時代報道で赤城の弓の射ち方が大きな論争になっていたこと、1月10日付の投稿記録で批判画像の転載が確認できることは、比較的確かな足場として使えます。J-CAST ニュース+1
こうして確度の違う資料を分けることが、「ネットでそう言われている」ことと「資料から確認できる事実」を混同しないために必要だと考えています。
『艦これ』の加賀と赤城は、具体的に何がおかしいとされたのか
加賀について2014年の保存記録を見ると、馬手の形、矢を扱う位置、口割、物見、弓手の小指、足の使い方などが批評の対象になっています。オレ的ゲーム速報@刃
現代弓道でこうした部分を見ること自体は不自然ではありません。
全日本弓道連盟の射法解説でも、弓構えでは右手を弦へ掛け、左手の手の内を整え、物見を定めます。その後も打起し、引分け、会へと動作が連続します。全日本弓道連盟
また赤城への指摘に出てきた「帽子」は、弽の親指側に関わる部分です。
現行競技規則でも、行射では右手に弽を着用し、三つ弽、四つ弽、諸弽などを用い、弽には控、帽子、弦枕を備えることが規定されています。全日本弓道連盟
ですから、もし「現代の競技弓道を忠実に再現した射」として赤城の画像を見るなら、取り懸けや弽の扱いを検討することには技術的な意味があります。
しかし、それによって直ちに「『艦これ』の弓描写はひどい」と証明されたことにはなりません。
『艦これ』は学校の近的競技を描いた作品ではなく、艦船を擬人化した人物が架空の戦闘を行う作品だからです。J-CASTが当時紹介した反論も、まさに「現代弓道を再現していると決めつけてよいのか」という論点でした。J-CAST ニュース
私はここを、弓道アニメ批評で最も取り違えやすいところだと感じます。
「現代弓道の基準形とは違う」は事実として検討できますが、「だから創作として間違いだ」は別途論証しなければならないのです。
ただし安全に関する描写は別に考えたい
だからといって、「フィクションなら何でもよい」と言うつもりもありません。
現行競技規則は、使用する弓具について伝統的な形状で、危険を及ぼす恐れのないものとすることを求めています。また第45条では、役員、選手、監督らが危険防止へ注意を払い、危険な行射があれば止める仕組みを定めています。全日本弓道連盟+1
弓矢は、画面の中では優美な道具に見えても、現実では安全管理が欠かせません。
アニメを見て弓道に興味を持った初心者が、作品の動きを自己流で再現するのではなく、設備の整った弓道場で指導を受けることは大切です。
私は、安全に関わる指摘と、創作上のフォームを細かく採点する話は分けて考えるべきだと思います。
前者には現実の事故を防ぐ意味があります。後者は、作品が何を描こうとしているのかという文脈まで見て初めて、公平な評価になります。
『ツルネ』はなぜ違う?早気・ゴム弓・息合い・体配まで描く
『ツルネ』が弓道作品として説得力を持つ理由は、射手の形を似せるだけでなく、「なぜその射になったのか」を物語にしている点です。
テレビアニメ『ツルネ ―風舞高校弓道部―』では、主人公・鳴宮湊が弓道から距離を置いた理由として、前の試合で抱えた問題が描かれます。
第2話の公式あらすじでは、それが「早気」であることが明示されています。『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト
早気は、この作品では単なる「腕の角度の作画ミス」のようには扱われません。
湊が射とうとするときの恐れ、焦り、過去の記憶、人との関係へとつながり、物語を動かす問題になっています。
全日本弓道連盟の射法解説では、「会」は引分けが完成し、心身が一つになって発射の時機が熟すのを待つ段階と説明されています。全日本弓道連盟
そのため、「十分に会を保ちたいのに離してしまう」という問題を描こうとすれば、腕や肩の線だけを美しく描いても足りません。
射手の内面まで描かなければ、なぜ苦しいのかが視聴者には伝わらないのです。
制作側も教本と経験者の意見を参照していた
『ツルネ』の公式サイトには、制作側の姿勢をうかがえる記録もあります。
第1期第3話のスタッフコメントで、演出の武本康弘さんは、弓道場面には話数を通じて注意を払い、教本を確認し、経験者から意見を得ながら仕上げた趣旨を説明しています。『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト
この情報は重要です。
「作画がきれいだから本物らしい」という感覚だけではなく、制作過程で資料と経験者の知見へ当たったことを公式資料から確認できるからです。
もっとも、専門家の意見を聞いた作品なら一切誤りがない、という意味ではありません。
アニメには時間、画面構成、演出という制約があります。それでも、弓道そのものを主題とする以上、何を調べ、どこまで作品世界へ落とし込むかは、視聴者が感じる説得力に大きく関係すると私は考えます。
第2期第3話では「一人の形」より団体の拍子が問題になる
『ツルネ ―つながりの一射―』第3話「朝嵐が吹く」では、風舞高校が辻峰高校と対戦します。
公式あらすじでは、辻峰の独特なテンポに風舞が翻弄され、湊は「自分が当てなければ」という意識を強めて的へ集中していきます。『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト
興味深いのは、「湊の右肘が何度ずれた」という話だけで敗因を作っていないことです。
相手の拍子、自分の的中への執着、五人で引く流れが絡み合って射が崩れていきます。
これは実際に団体で弓を引く感覚を考えるうえで、非常に示唆的な描写です。
弓道は一人ずつ矢を放つ競技ですが、団体戦では一人だけ真空の中にいるわけではありません。前後の射手の動きや弦音、自分が今どこにいるのかという感覚が、立全体の印象を作ります。
第4話で湊が「弓を持たせてもらえない」意味
続く第4話「拍子の大離れ」では、地方大会で思うような試合ができなかった風舞に対し、滝川雅貴が湊の的前での練習を禁じます。
さらに湊は弓そのものを持たせてもらえず、練習用のゴム弓で基本動作を繰り返します。『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト
これは単なるアニメ的な罰ではありません。
全日本弓道連盟もゴム弓を、矢を番えずに射形や動作を確認できる練習具として紹介しています。しかも初心者だけでなく、上級者も射法八節の流れやフォームを確かめるために使うと説明しています。全日本弓道連盟
私は長く稽古を続ける中で、ここに強い現実味を感じます。
調子が悪いと、つい「もっと矢数を掛ければ戻る」「もっと当てれば自信がつく」と考えたくなります。しかし崩れた原因が動作や呼吸にあるなら、結果を追い続けるほど修正しにくくなることがあります。
いったん的から離れ、基本動作へ戻る。
『ツルネ』は、その地味な時間を物語上の意味ある過程として描いているのです。
第5話の「息合い」、第6話の「体配」が一つにつながる
第5話「押し手、引い手」では、湊が自分の射形を取り戻し、「息合い」を見つけるためにゴム弓を続けます。『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト
さらに第6話「姫反り成る」では、妹尾梨可、花沢ゆうな、白菊乃愛の女子3人が市民弓道大会の団体戦へ出場します。
湊は自分で射ることを我慢し、3人の一体感のある体配をじっくり観察し、そこから気付きを得ます。『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト
ここで第3話からの流れが一本につながります。
「当てたい」と自分一人の的へ集中した湊が、弓を取り上げられ、ゴム弓で動作へ戻り、やがて他人の体配を観察して、団体の呼吸へ目を向けていく。
つまり『ツルネ』は、
- 的中への執着
- 団体の拍子の乱れ
- 的前を離れること
- ゴム弓による基本の確認
- 息合いへの意識
- 他者の体配を観察すること
を、ばらばらの弓道用語として並べているのではありません。
一つ前の失敗が次の学びを生み、次の学びがさらに別の気付きへつながるように構成しています。『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト+1
だから私は、『艦これ』と『ツルネ』を「どちらの手の形が正しいか」という一つの物差しだけで比べるのは適切ではないと考えます。
『艦これ』では弓が架空戦闘を成立させる表現手段の一つです。
『ツルネ』では、弓をどう引くか、なぜ引けなくなるか、どう基本へ戻るかということ自体が人物の成長を作っています。作品の目的そのものが違うのです。
考察|弓道アニメは「形・運行・文脈・物語」の4層で見る
ここからは、弓道を稽古してきた者としての私見です。
弓道アニメの描写を公平に見るなら、私は従来の「フォームが正しいか」という見方だけでなく、「形」「運行」「文脈」「物語」の4層に分けて考えるのがよいと思います。
第1層は「形」――目に見える射法
一つ目は、足踏み、胴造り、取り懸け、物見、引分け、会、離れ、残心など、画面から直接確認しやすい部分です。
学校の競技弓道を描く作品で、この層が大きく崩れ続ければ、経験者が不自然さを覚えるのは当然でしょう。
『艦これ』騒動で注目された加賀や赤城への批評は、主としてこの「形」の層に集中していました。オレ的ゲーム速報@刃+1
第2層は「運行」――一人ではなく射場全体を見る
二つ目は、入場、本座、射位、立順、前後の射手との間合い、安全管理などです。
現行競技規則でも、行射の順番、射数、射位や本座の位置、制限時間、無効となる矢などが細かく定められています。全日本弓道連盟+1
ここは静止画像一枚では判断できません。
「この瞬間の腕が何度違う」という検証と、「一つの立がどう進んでいるか」という検証は、必要な情報量がまったく違います。
第3層は「文脈」――そもそも何の弓を描いているのか
私は、この「文脈」を独立させることが特に大切だと考えます。
現代の高校弓道なのか、歴史上の弓術なのか、神事の射なのか、架空世界の戦闘なのか。
ここを飛ばしてはいけません。
全日本弓道連盟の競技規則は、全弓連などが主催・主管する競技を安全、公正、公平、円滑に運営するための規則です。全日本弓道連盟
それを架空の海戦場面へそのまま持ち込み、「競技規則と違うから間違い」と結論づければ、作品側が最初から約束していない基準で採点することになります。
逆に、作品が「高校弓道の全国大会」を明確に描いているなら、「ファンタジーだから」で何でも済ませるのも適切ではありません。
作品自身が何を再現すると約束しているのか。
この問いを一度挟むだけで、批評はかなり整理されます。
第4層は「物語」――なぜその射になったのか
四つ目は、もっともアニメらしい部分です。
なぜ早く離してしまったのか。
なぜ当たっているのに射が崩れたのか。
なぜ弓を持つ練習から離れなければならないのか。
なぜ仲間の体配を見ることで自分の射が変わるのか。
『ツルネ』は、この「なぜ」を射法と切り離さずに描いています。早気から始まり、第2期では的中への焦り、辻峰の拍子、ゴム弓、息合い、女子部員の体配へと因果がつながっています。『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト+2『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト+2
私はここに、単なる「正確な作画」を超えた弓道作品の価値を感じます。
教本と同じ姿勢を描くことは大切です。しかし実際に稽古している者が苦しむのは、正しい形を知らない時だけではありません。
知っているのにできない。
昨日できたことが今日はできない。
当てようとした瞬間に、それまで積み上げたものが崩れる。
だからこそ基本へ戻ります。
全日本弓道連盟が、初心者だけでなく上級者にもゴム弓による射法八節の確認を勧めていることは、その「戻る稽古」が決して初心者だけのものではないことを示しています。全日本弓道連盟
「弓道警察」という言葉から学べること
『艦これ』の一件は、専門知識と創作の関係を考える好例でもあります。
専門知識を持つ人が、「現代弓道ならここが違う」と説明すること自体は有益です。
むしろ私は、弓道を知らない視聴者が「取り懸けとは何だろう」「物見とは何だろう」と興味を持つ入り口になり得ると思います。
問題が生じやすいのは、その説明がいつの間にか「自分の知っている方法と違うから作品そのものが駄目だ」という判決へ変わる時です。
反対に、作品のファン側も「アニメなんだから何でもよい」と専門的な指摘をすべて嘲笑する必要はありません。
2015年当時のJ-CASTの記事でも、細かな考証を求める側と、ファンタジー作品としての表現を重視する側の双方が紹介されていました。J-CAST ニュース
その二つは、本来なら両立できます。
「現代弓道ならこの点は違う。しかしこの作品は競技弓道を再現する場面ではない」
「この作品は高校弓道を題材にしているので、ここは考証の精度が作品の説得力に直結する」
このように基準を先に明示するだけで、専門知識は作品を取り締まる道具ではなく、作品を深く味わう道具になります。
今後の弓道アニメを見るときにも使える
SNSでは、一枚の画像だけが作品全体から切り離されて拡散されることがあります。
その場合、「形」の検証はできますが、「運行」「文脈」「物語」が抜け落ちやすくなります。
『艦これ』騒動で一枚の注釈画像が強く注目されたことは、その弱点をよく表しているように私は思います。J-CAST ニュース+1
今後、別の弓道アニメや武道作品で「これはおかしい」という画像が話題になった時も、すぐ賛否を決めず、
何の弓なのか。どの場面なのか。動画全体ではどう動いているのか。公式規則の適用対象なのか。物語上の意図は何か。
この順で確かめると、かなり冷静に判断できます。
私は、これこそ弓道を知る人が創作に対してできる、最も実りある関わり方ではないかと考えています。
まとめ|弓道アニメは「前提」を分ければ公平に見える
弓道アニメを見て「おかしい」「ひどい」と感じること自体は、決して不自然ではありません。
現代の競技弓道には射法八節があり、現行の全日本弓道連盟競技規則では近的28メートル、遠的60メートルをはじめ、的、行射順序、弓具、安全、無効となる矢などが具体的に定められています。全日本弓道連盟+3全日本弓道連盟+3全日本弓道連盟+3
学校の競技弓道を正面から描く作品なら、その基準との整合性は作品の説得力を左右するでしょう。
一方、『艦これ』では2014年のアニメ化関連ビジュアルの段階から加賀の馬手、口割、物見などへの批評が残り、2015年1月には赤城の射へ10か所の細かな指摘を加えた画像が報道されました。オレ的ゲーム速報@刃+1
ただし、そこから「多数の弓道人が組織的に作品を監視していた」と結論づける資料までは確認できません。
むしろ保存された転載記録を見ると、一枚の指摘画像が複数の批判者によるもののような表現とともに流通していた例があり、個人の専門的指摘と、後から形成された集団イメージを分ける必要があります。GIGAZINE
そして『艦これ』は現代の競技弓道大会を描く作品ではありません。
したがって、「現代弓道の基準と違う点がある」という検証と、「フィクションとして失敗している」という評価は分けて考えるのが妥当です。J-CAST ニュース
対して『ツルネ』は、鳴宮湊の早気を出発点として、第2期では団体の拍子、的中への焦り、ゴム弓による基本練習、息合い、体配へと弓道上の問題を物語の因果関係に組み込んでいます。制作側も教本や経験者の意見を参照したことを公式サイトで説明しています。『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト+3『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト+3『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト+3
弓道アニメを見るとき、私は「形・運行・文脈・物語」の4層で見ることを勧めたいと思います。
形だけなら、一枚の画像でもある程度は分かります。
しかし弓道の面白さは、その前後にある呼吸、間合い、迷い、仲間との関係まで含めて初めて見えてきます。
専門知識は、作品を取り締まるためだけにあるものではありません。
「実際の競技ならどうするのだろう」と調べ、作品があえて変えた部分と丁寧に再現した部分を見分けられるようになること。その方が、弓道にもアニメにも公平で、何より楽しみの深い見方になると私は感じています。
よくある質問
「弓道警察」という実在の組織があるのですか?
今回確認した公的資料や2015年当時の報道に、「弓道警察」という正式な組織が作品を監視していたことを示す資料はありません。
『艦これ』の弓描写をめぐって個人による具体的な指摘が存在し、その画像や反応が転載・拡散されて大きな論争になった、と理解するのが慎重です。J-CAST ニュース+1
『艦これ』では具体的に何がおかしいと指摘されたのですか?
2014年の加賀については、保存された投稿記録で馬手、矢の扱い、口割、物見、弓手の小指、足の使い方などが問題視されています。オレ的ゲーム速報@刃
2015年の赤城については、J-CASTニュースが10か所の注釈画像を紹介しており、爪揃え、取り懸けの位置、中指と弽の帽子の関係などが論点になりました。J-CAST ニュース
ただし、これらは主として現代弓道から見た指摘です。
『艦これ』は競技弓道そのものを描く作品ではないため、「現代弓道とは異なる」と「作品として誤りである」は区別して考える必要があります。
弓道を比較的丁寧に描いているアニメはありますか?
代表的な作品として『ツルネ』シリーズが挙げられます。
第1期では鳴宮湊の早気が物語の重要な問題となり、第2期では辻峰高校との試合での拍子、ゴム弓による基本への戻り、息合い、女子3人の一体感ある体配などが具体的に描かれます。『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト+2『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト+2
さらに制作スタッフが教本を確認し、経験者の意見も得ながら弓道場面を作ったことが公式サイトで明かされています。『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト
射手の手足だけを見るのではなく、「なぜ射が崩れ、何を学んで戻っていくのか」に目を向けると、『ツルネ』が弓道をどのように物語へ取り込んでいるのかが、よりよく見えてきます。
元行政職員・生涯学習コラムニスト
結城宗太郎


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