50代になってから、何か音楽の素養を身に付けたくなりました。
子供のころは無理やりピアノに行かされ、すぐにやめてしまいましたし、20代にはギターを独学で練習しましたが、全く物にならず埃をかぶっています。
30代、40代はお決まりのカラオケで、困ることはないもの満足感は得られませんでした。
ついにこれが最後のチャンスになるかもしれないと焦りましたが、最大のネックは、西洋系統の楽器は高価で、練習に時間がかかることです。
しかも、自分を含め耳慣れているので、自分の下手さにがっかりし、気後れしてしまうことです。
何とかこれを克服する手はないかと、いろいろ物色した挙句、たどり着いた結果が、雅楽の龍笛でした。
雅楽の龍笛とは何だろう
雅楽、龍笛と言われても、まったくなじみがない方もいらっしゃいますので、その中から、普通に考えるイメージとは異なる発見をご紹介します。
発見1 雅楽の龍笛は平安時代の主役
「雅楽」と聞くと、「神社で鳴らしているわけのわからない音楽」とか「結婚式で鳴らす音楽」というのが普通の人の反応です。
今では正月ですらテレビに出るのも稀で、YouTubeの動画で見られる程度。東儀秀樹がその中では例外的に活躍しているというのが実情です。
私が、このジャンルを選んだのは、「とにかく人と違うことがしたい。人との比較されて落ち込みたくない。」という思いからです。
何をやっても出遅れるのが常ですから、ついこういう方面に行ったのです。楽譜も縦書きでだれも理解できないので、ますます良いのです。
龍笛というのは、この中で出てくる横笛で、龍が鳴いているイメージにより名付けられたものです。
現代の雅楽では篳篥という太い低い音を出す楽器が主役とされていますが、千年前の源氏物語絵巻を見ても、光源氏のような高貴な方は龍笛(又は横笛という。)を吹いていました。
千年前は楽器にも格があって、光源氏は決して篳篥を吹きませんし。枕草子でも龍笛は絶賛されていますが、篳篥は散々です。ということで、一気に高貴な世界に入ることができます。
楽器を吹くスタイルも龍笛は横笛ですので見た目もそれなりに美しいのですが、篳篥になると縦笛でかなり頬を膨らませるスタイルになります。
笙は楽器を顔の前に構えて吹くため、顔が全く見えません。トータルとしての美しさは龍笛が一番です。
発見2 楽器の練習に行って歌を歌う
龍笛の練習に行くと最初は唱歌という意味不明な歌を歌うところがほとんどです。例えば、越天楽で行けば、最初の出だしが「トーラーロ、ロールーロ、タァーアーローラ」という感じです。
これを歌いながら、膝を手でたたいてリズムをとっていきます。
歌詞に意味は全くありません、楽器の音程、節回しを会得するための歌で、昔はこれをマスターしないと楽器を持たせてくれなかったそうです。
今そんなことしたら、みんな逃げてしまいますので、適度に折り合いをつけているようです。
最初は、笛を吹く時間よりも、唱歌を歌う時間の方が長いので、最初は何か間違った所に来たのではないかとか、びっくりします。
次には、この歌の意味があるのではないだろうかと探るのですが、無駄な努力でした。本当に意味はないのです。
幸か不幸か、私は、唱歌を歌わないことを方針としている所で習い始めたのですが、転勤したおかげで、別の教室に入ったときには、大いに戸惑ったものです。
そして同じように歌詞の意味をさんざんさがしましたが、徒労に終わりました。
雅楽の龍笛を趣味として吹く効用
雅楽の龍笛を現代において吹くことで、西洋楽器とは異なる世界が開けます。その中で効用と思われるような発見を紹介します。
発見3 練習用龍笛は堅牢、練習し易く、音も良い
最初に渡される龍笛はプラスチックで龍笛を模したものです。費用は5、6千円程度です。全長約30㎝、指で押さえる穴は7個あります。
小、中学校で横笛を吹いたことがある人であれば容易に音は出ます。これはコツの問題ですので、地道に家で単音練習すれば1年以内には何とかなります。
息の強さで1オクターブ上の音を出すので、全体で2オクターブの音域です。
このプラスチックの龍笛は護身用にも使えるくらい頑丈ですし、結構いい音、大きな音も出ます。「本管よりもいい音がする。」と言っている上級者もいます。
少し長い旅行には、嵩張らないので持っていきます。トランクに入れても壊れませんので、海外旅行にも持っていきます。
ホテルで空いた時間に吹いていると、奇妙な音が出てくるので、外人が怪訝な顔をして通り過ぎていたそうです。
当然音の名前も違います。ドレミファソラシドではなくて、ミから始まってカン、ゴ、ジョウ、シャク、チュウ、ゲ、ロクという名前になります。音程も微妙に違います。
何年かすると、竹製の本管が欲しくなりますが、大量生産品でないため、値段はピンキリですし、音程が合っているかも判断できないので、素人が気楽に手を出すのは気を付けましょう。
発見4 雅楽はほとんどの人がわからない
教室に入ると、ほぼ100%越天楽の練習になります。もはや、越天楽以外の楽曲は聞かれません。
短く演奏すれば6分程度の曲です。上手下手は別として、これさえ最後まで吹ければ、とりあえず格好がつきます。
年末、年始のお呼ばれとか、結婚を控えた人のパーティで披露すると、一味違ったプレゼントになります。
その次のポピュラーなものとしては、五常楽、酒胡子ですが、まず聞かないでしょう。私も何度か神社のお祓いに参加しましたが、五常楽を2回しか聞いたことがありません。
ということは、一般の人は全くわからないということです。
越天楽に飽きたら、五常楽とか酒胡子を吹いてみたりしますが、途中で終わっても、間違っても、堂々としていれば、それなりに終わってしまいます。
ということで、かくし芸の一つとしてご披露することもできますし、よほど変な音を出すか、音が全く出ないかでない限り、それなりの話題提供ができます。
発見5 西洋音楽への応用ができる
音の名前が違いますが、ミをカンとして、若干音を調節することで、西洋音楽も演奏できます。
特に、ジブリ系の「もののけ姫」とか「君をのせて」とも相性がいいし、ホルストの「ジュピター」とか「大黄河のテーマ」もいい演出ができます。
難しく、高価な楽器をそろえる必要もなく、自分で表現できる手段を得られることは大きな喜びです。しかも純粋の西洋楽器ではないので、多少の下手さも寛容に見てもらえます。
実際に、龍笛を披露する際には、雅楽の曲も1曲は披露しますが、大抵は知らない曲なので、いつの間にか終わるというイメージです。
これでは不親切なので、雅楽1曲、ポピュラー1曲という構成で披露しております。
発見6 笛は呼吸と姿勢の訓練
笛を上手に吹くためには、深い腹式呼吸と、姿勢が大切です。これは、高齢化社会に入っていく中年の方の健康管理に必須の事項です。
運動系のように体を動かす必要はありませんが、四季折々、千年の昔をおもい、自宅で静かに練習することで、精神の安らぎに加えて、健康管理にも役立つ趣味です。
雅楽の龍笛を通して日本音楽の伝統を知る
雅楽の龍笛を吹くことで、楽器の演奏以上の日本文化を知る良いチャンスになるわけです。そんなことをまとめてみました。
発見7 雅楽の千年以上の変遷、変化を知る
雅楽に触れてくると、雅楽がどのような変遷を経て、現代までつながってきたのかを、知らされることになります。
一つ一つの曲には、どういう由来で、どのような場面で演奏されたかとかが、伝わっております。
源氏物語とか平家物語でも様々な場面で雅楽の楽曲が出てきます。そのようなことから、日本文化を深く知る機会になることでしょう。
例えば、転勤の時のお別れの会では、「仙遊霞」という斎宮が出立するときに演奏された曲の説明とともにご披露します。
また、秋の集いでは、源氏物語の紅葉の賀で有名な「青海波」をご紹介します。
こんなことを繰り返していると、曲の由来、その時の背景、知識がだんだん蓄積されて、一人でいるときもその季節に想いを寄せて練習したりしております。
また、教室によっては演奏会で、狩衣だったり水干だったり、現代では着ることもない衣装を着ける体験にもなります。
趣味として始める雅楽の龍笛のまとめ
ひょんなことから、一般の人が触れない雅楽の龍笛の世界に入ることになりました。
龍笛はとんでもない音が出る楽器でもありませんし、音が大きすぎて近所迷惑になることもないでしょう。持ち運びも便利です。
何よりもうれしいのは、自分が曲がりなりにもひける楽器が手に入ったこと、しかも、比較することが少ないということです。
人間は周囲との比較で成り立っているので、自分に比べて周りが高いと落ち込んでしまうものです。
私は、年末年始の会合、プライベートの会合などに、年に1、2回ご披露させていただいております。そうすることで、自分の練習の励みにもなりますし、度胸もついてきます。
年始なら、新年を迎える気分にもなりますし、その季節に合わせた曲を演奏することで、話題を提供することもできます。
ついには、ある社長さんのお祝いのパーティでも披露することになり、一張羅の狩衣、烏帽子姿で出演することにもなりました。
それなりの緊張感の中で練習の成果を披露でき、良い思い出となりました。
ということで、中年の音楽系の趣味の一つとしていかがでしょうか。始め方としては、二種類あります。
一つはカルチャーセンターの龍笛講座に入るもの。二つは雅楽団体を検索して、初心者の受け入れができるところを探すもの。それぞれ長短ありますし、組み合わせもあるでしょう。
人生の新しい扉を開く気持ちで、飛び込んでみてはいかがでしょうか。
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