「もう年だから…」そう言って、新しい学びや挑戦を諦めてはいませんか?
今回ご紹介するのは、70歳で夜間中学に入学し、現在81歳で現役の高校生として学んでいる村田十詩美(むらた としみ)さんです。波乱万丈の人生を歩んできた村田さんが、なぜこの年齢で再び学びの道を選んだのか。そして、彼女が学んだ「夜間中学」は、今、どのような役割を果たしているのでしょうか。
この記事では、村田さんの感動的なストーリーをたどりながら、学び直しの素晴らしさと、夜間中学の制度や現状について、初めての方にも分かりやすくお話ししていきます。年齢や境遇を問わず、「学びたい」と願うすべての人にとって、希望の光となるようなお話です。
この記事を読むとわかること
- 村田十詩美さんが学び直しの道を選んだ、波乱に満ちた人生の経緯。
- 夜間中学の入学を迷った末に一歩を踏み出した、その時の心境。
- 夜間中学がどんな場所で、どのような生徒たちが学んでいるのか。
- 最新のデータに基づいた、夜間中学の全国的な設置状況や今後の動き。
村田十詩美さんの生涯|なぜ70歳で夜間中学へ?
村田さんの人生は、幼い頃から苦労の連続でした。
幼い頃から家計を支える日々
村田さんは大阪の西成で生まれ、両親の離婚や母親の再婚を経験します。しかし、継父が病気で働けなくなり、幼い村田さんが内職で家計を支えることになりました。
中学校に入学した後も、その状況は変わりません。中学1年生で学生服のまま、住み込みで働き始めたため、ついに学校に通うことを諦めてしまいます。店の前を通る同級生の姿を見るのが、とても辛かったそうです。
その後も、学生服店やミシン工場で働き続け、学びたいという気持ちを胸にしまい込んだまま、日々を過ごしました。
結婚と自立、そして学びへの思い
17歳で結婚し、2男2女に恵まれます。順風満帆な生活が続くかと思いきや、夫が働かなくなり、再び村田さんが家庭を支えることになります。
そして、子供たちが巣立ち、68歳で自立した生活を始めた頃、たまたま目にしたのが夜間中学の案内でした。
実はそれまでずっと、「漢字が書けない、読めない」ことが心の中で重荷になっていた村田さん。「いつか学びたい」という思いはずっと持ち続けていたのです。
3年間の迷いを経て、学びの扉を開く
夜間中学の案内を見ても、すぐには一歩が踏み出せませんでした。若い生徒の中に混ざるのが恥ずかしい、うまくやっていけるだろうか…。そんな不安から、学校をこっそり偵察に行ったりしながら、3年間も迷い続けたといいます。
しかし、ある日「このままでは後悔する」と強く思い、入学の締め切り間際に意を決して電話をかけます。こうして、2011年(平成23年)、70歳にして初めて夜間中学の門をくぐることにしました。
学びの場としての夜間中学|その実態と役割
夜間中学ってどんな学校?
村田さんが通った夜間中学は、公立の中学校です。授業料は無償で、夕方から夜にかけて授業が行われます。
夜間中学に通っているのは、村田さんのように様々な事情で義務教育を十分に受けられなかった人たちです。
具体的には、以下のような人々が学ぶために通っています。
- 戦争や貧困などで、義務教育を終了できなかった人
- いじめや不登校が原因で、ほとんど学校に通えなかった人
- 日本国籍を持たず、母国で義務教育を終えられなかった外国人の方
多様な生徒が集まる夜間中学ですが、村田さんが入学したクラスには、なんと自分より年上の生徒が8人もいたそうです。「学びたい」という思いに年齢は関係ない、ということがよくわかるエピソードですね。
村田さんは9年間かけて中学を卒業した後、2021年からは大阪府立寝屋川高等学校の定時制に進学し、81歳になった現在も学び続けています。
夜間中学の現状と今後の動き
文部科学省の調査(平成28年)によると、当時の夜間中学の生徒数は1,729名でした。そのうち、約8割が外国籍の生徒で、多様な背景を持つ人々が集まっていることがわかります。
生徒の年齢も幅広く、60歳以上が23.4%、16歳から19歳の若者が19.1%を占めています。
卒業後の進路は、約6割が高等学校に進学しており、夜間中学が新たな学びのステップにつながる大切な役割を果たしていることがうかがえます。
2016年には「教育機会確保法」が成立し、義務教育を十分に受けられなかった人々のために、各自治体に夜間中学の設置が促されるようになりました。
近年、夜間中学の開設を予定している地域も増えています。
- 令和4年度:札幌市、相模原市、香川県三豊市、福岡市
- 令和5年度:千葉市、静岡県、姫路市
- 今後開設予定:仙台市、長崎県、福岡県大牟田市、鳥取県、岡山県など
このように、夜間中学の必要性はますます高まっており、全国で学びの機会が広がりつつあります。
まとめ:年齢や境遇を乗り越え、学び続けることの力
村田十詩美さんの人生は、様々な苦労を乗り越えてきました。それでもなお、「学びたい」という思いを諦めず、70歳を過ぎてから中学校、そして高校へと進学し続けています。
「人生100年時代」と言われる現代において、村田さんのように年齢や境遇を言い訳にせず、学び続けることの大切さを教えてくれる素晴らしい生き方ではないでしょうか。
夜間中学は、義務教育の機会を逃した人々にとって、再び学びへの一歩を踏み出すための大切な場所です。もしあなたやあなたの周りに「もう一度学びたい」と願っている方がいたら、ぜひ夜間中学という選択肢を教えてあげてください。
この記事が、学ぶことへの意欲を失いかけている方にとって、少しでも勇気を与えられたなら幸いです。
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