弓道の審査で、最初に多くの方がつまずくのが参段の審査です。
「的中稍稍確実な者」という記述が災いして「何としても一本中てなくては」ということに意識が向きすぎて、他の大切なことがおろそかになっている方が多いのです。
確かに一本の的中は必要条件ですが、その前に大事なことができていてのことです。ここらを説明しながら必要な準備を説明します。
弓道参段(三段)までに必要な条件とは
まずは教本の審査規定をしっかり認識する必要があります。弓道初段には「射型体配型に適って、矢所の乱れぬ程度に達した者」と書いてあります。
すなわち入場から退場まで、射の運行までがスムーズにできていればほぼ満足できるレベルです。
これに加えて弐段になると、「射型体配共に整い射術の運用に気力充実し、矢所の乱れぬ者」。
参段になると、「射型定まり、体配落着き、気息整って、射術の運用法に従い、矢飛び直く、的中稍稍確実な者」となります。
つまり、前提として気力の充実、体配の完成、気息の整いが大切になってくるのです。これが射の前提として求められるのです。
これらの求められる条件を次から述べていくこととします。
入場から退場までの体配のポイント
一番大事なところは入場です。息合いと一緒に解説すべき事項ですが、整理上分けて説明していきます。
入場でのポイントは正しく上座に正対させることができるかです。自分は正対しているつもりになっていても体だけが正対していて、足のつま先が別方向を向いている事例がたくさんあります。
全体を揃えるのは意外と難しいものです。
当然、正対すべき対象、順番については、ご承知のことと考えますが、一に神棚、二に国旗、三に審査員の一番左側です。
会場が大きくなって第一射場の場合は、この順番で良いのですが、第二射場は審査員に正対すべきです。
その後の進行で的正面から脇正面に方向を変えるときに左足の踵の線を越えないよう右足を運びますこれも、意外とできていない人が多いところです。
次に脇正面から的正面に方向転換するときの注意点も同様です。
本座で座った姿勢になった時に膝が生かせているか。立ち上がって射位に進み、座った姿勢になった時も同様です。
矢番え動作のあと弦が鼻筋と一直線となって垂直に整っているか。5人の弦が重なるようになっているか。
矢番え動作のあと弓手の肘が張った姿勢で保たれているか。だらしなく下がっていないか。
甲矢を射終わって乙矢を射るまでも同じような注意点になります。
跪座の姿勢から立ち上がるときに弓の弦は少し左側に寄せて筈をもって弓を保ちます。立ち上がるときに膝を締めることもお忘れなく。
最後退場の時にしっかり上座に正対することができるか。退場した後もそのままの姿勢で進むことができているか。
目使い
初段審査と違って目使いについても細かく求められます。本人はできているつもりでも、審査員席から見るとどこを見ているかがはっきりわかります。
注意して自然にできるようにならないと、つい自分が気になるところを見てしまいます。気力の充実がはっきり表れるので注意しましょう。気を付けるポイントとしては次の通りです。
入場に際しては歩行中の視線ですので自分から4m手前になります。審査員と視線が合わないようにしてください。その他歩行中についても同じです。
座るところで体が下がっていくにつれて視線の位置も下がってきて、最終的に2m先に落ち着くのです。先に視線を下げてしまう方が多いのです。
矢番え動作の時の視線の運び方につてしっかり認識してください。細かくは説明しませんが、ここについては一番注意されるところです。
弦調べは当然できているでしょうが。
最後に退場の時の目線の運び方がずれないように注意しましょう。
息合い、呼吸
息合いについても重要です。これができていないと動作が不安定で全体にそろわないので、見ればわかってしまいます。基本はご存じでしょうから、細かくは説明しません。
例えば、矢番えが終わって自分の立つときに、吸う息で、膝を締めて腰を伸ばします。
一方の足を爪立て他方も爪立てます。次に息を吐いて、吸う息にて足を踏み出し、吐いたのちに吸う息に合わせて立っていきます。
こんな動作は教本に書いてあるのですが、私も含めてなかなか完全には身につかないのです。
射法について
どうでしょうか、射にたどり着く前にチェックされる項目がどれほど多いかお分かりになるでしょう。審査員は見ていないようでもこんなことは簡単に見抜いてしまいます。
射を行う前に10も不完全なところがあったら、問題になりません。現にそういう趣旨のことをおっしゃっている先生もいます。
少なくとも射にたどり着くまでに不完全な点を2つ、3つぐらいに押さえられるよう努力することが必要です。
審査の時にこの内容を自分でチェックしながら進むようでは、とても希望が持てません。ぜひ身につくように練習していただきたいのです。
そこから射です。
特に息合いについては、射の段階でしっかり決まっているでしょうか。特に打起しは吸う息から始まるのですが、打起しから大三にもっていくときもたいていの人は吸う息になると思います。
引き分けについても吸う息で始まるのですが、そこからは諸説あるようです。ぜひ自分の方法を確定して、一つのルーティンとして決めておいてください。
後は、運を天に任せて大きく一文字に放せばよいのです。射についてはそれぞれ道場でも細かく指導されていると思いますので、私としては、気持ちの面からのアドヴァイスにとどめたいと思います。
いずれにしろ一本中てなければということは忘れたほうが良いと思っております。
筆記の模範解答の活用はほどほどに
最期に、筆記のレポート又は学科試験についてです。これは審査の申し込み時に提出するときに終わっていますので、問題にはならないでしょう。教本に沿ってそれなりの内容があれば学科で落とされることはないと思います。それでも、一言だけ解説しておきます。
世の中には模範解答として、ネットに回答例が氾濫しています。これを参考にすることについては否定しませんが、もはや参段ともなれば、その内容を全く写してしまうことはやめたほうがよろしいかと思います。
下手すれば、同じ文章が出てくれば問題ともなるでしょう。それよりも、その内容を咀嚼して、自分の言葉で吟味して書いていただきたいと考えています。
あくまでも教本の該当部分に照らして、自分なりに納得して書いていただく方が、将来にわたっても本人のためになると思います。そのような考え方が自分の射振り返り自分の技術を向上させる糧になると思います。
弓道参段の審査を受ける心構えと意義。中級者への準備のまとめ
弓道初段を経て、初級者方中級者への入り口となる弓道参段に臨むための必要なことについて私なりにまとめてみました。
中る秘訣が載っているのではないかと尋ねられた方にはがっかりされたことと思います。
見ていて射は皆さん熱心に練習されるので、また、いろいろな方にアドヴァイスも受けているので立派な人が多いのです。
でも残念なことに射にたどり着く前にどうも出来てないなと思わせることが多いのです。
特に今年長く続くコロナ感染症のため、講習会もほとんど受けられないせいか、射礼の練習がほとんどできていない方が多いのではないかと心配しています。
射礼の練習をしようとしてもそういうモードにならないのも理解できます。だからそれだけにこれらのことを自宅でも良いから練習しておいたほうが良いと思っています。
いくらビデオ審査といっても体配とか、目使いとか近距離での息合いは分かってしまうものです。
最後に一つの考え方を提供しておこうと思います。審査の時に何に注意するかですが、全部というわけにはいきません。
入場から本座まで、本座から矢番え動作まで、射の運行、射位から退場までに分けてその間に注意することを一つだけに絞ることです。
一番いけないのは、入場から本座までの間に射のことを考えることです。人間が注意できるのは一度に一つだけです。その間に注意することを絞って、それが終わったそのことは忘れること。
このような心掛けができればよいかなと思います。練習の時に試してみてください。
しばらくの休眠期間を経て、審査もぼちぼち開始されることと思います。皆様のご検討をお祈りし、少しでもお役に立てれば幸いです。
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