2006年算数オリンピック・トライアルの図形問題は、正五角形と正三角形を補うと、角D=54度と求められます。
条件はAB=BC=CD、角B=168度、角C=108度。当時の正答率は15.5%で、2021年の第30回大会記念イベントでは約100名から多様な解法が寄せられた、補助線の発想を学ぶのに適した一問です。
なお、本稿で扱うのは日本数学オリンピック(JMO)や国際数学オリンピック(IMO)ではなく、算数オリンピックのトライアル問題です。算数オリンピック委員会が第30回大会記念イベントで公開した問題・結果紹介をもとに、初心者にも追いやすい形で整理します。
算数オリンピック2006年トライアルでは何が問われたのか?
結論から確認すると、求める角Dの大きさは54度です。
問題で与えられている条件は、次の四つだけです。
- AB=BC=CD
- ∠ABC=168度
- ∠BCD=108度
- 求める角は∠CDA
見た目には、かなり情報が少ない問題です。
四角形の内角の和は360度ですが、分かっている角は168度と108度の二つだけです。残る角Aと角Dの両方が未知なので、単純に360度から引くだけでは角Dを決められません。
ここで重要になるのが、「与えられた角度を、そのまま計算するのではなく、知っている図形に読み替える」という考え方です。
108度は正五角形の内角です。
そして、
168度=108度+60度
と分けることができます。
60度といえば正三角形です。
つまり、この問題には最初から、正五角形と正三角形を作ってくださいという手がかりが、108度と168度の中に隠れていると見ることができます。
正答率15.5%だった理由は計算量ではない
2006年のトライアルで、この問題の正答率は15.5%でした。
数字だけを見ると難問ですが、複雑な計算を何行も続ける問題ではありません。
難しさの中心は、
「108度を見て正五角形を思い出せるか」
「168度を108度と60度に分けられるか」
「AB=BC=CDという等しい辺を、新しい図形へつなげられるか」
という最初の見方の転換にあります。
私はここに、算数オリンピックらしい面白さがあると感じます。
知っている公式を多く持っているだけでは足りません。目の前の168度を「168」という孤立した数字ではなく、「108+60」と見直した瞬間に、問題の景色が変わります。
2021年の第30回大会記念イベントで再登場した
この2006年問題は、算数オリンピックが2021年に第30回を迎えることを記念した企画「算数オリンピックの難問題に挑戦!」で再び取り上げられました。
第2回・問題①として、2020年12月24日に公開され、応募締め切りは2021年1月7日、結果発表は1月13日という日程でした。
企画では、答えだけではなく「どのように考えたのか」が募集されました。
この問題には約100名の応募があり、算数オリンピック委員会の紹介によると、正三角形と正五角形を作る解法が多かった一方、等脚台形、二等辺三角形、正三十角形などに注目する答案も寄せられています。
同じ54度を求める一問から、これほど異なる図形が現れたこと自体が、この問題の価値をよく表しています。
なぜ角Dは54度?正五角形と正三角形で順番に解く
この問題を初めて学ぶ方には、正五角形を完成させる方法が最も構造を理解しやすいでしょう。
補助点を二つ取り、新しい点をE、Fとして、五角形B-C-D-E-Fが正五角形になるように図形を補うと考えます。
まず108度から正五角形を作る
正五角形の一つの内角は108度です。
正多角形の一つの内角は、
180度-360度÷辺の数
で求められます。
正五角形なら、
180度-360度÷5
=180度-72度
=108度
です。
問題では、
BC=CD
かつ、
∠BCD=108度
となっています。
つまり、辺BCとCDはすでに、正五角形の隣り合う二辺と、その間の内角になっています。
そこで、B-C-Dに続くように点E、Fを補い、正五角形BCDEFを完成させます。
すると正五角形なので、
BC=CD=DE=EF=FB
です。
もともと、
AB=BC
でした。
したがって、
AB=BF
も成り立ちます。
ここで初めて、問題文の「AB=BC=CD」という条件と、補った正五角形が強く結び付きます。
次に168度を108度と60度に分ける
正五角形BCDEFを作ると、頂点Bの内角∠CBFは108度です。
一方、問題では、
∠ABC=168度
です。
図の位置関係から、
∠ABF=168度-108度
となるので、
∠ABF=60度
です。
さらに、
AB=BF
でした。
二つの辺が等しく、その間の角が60度ですから、三角形ABFは正三角形になります。
したがって、
AB=BF=AF
であり、
∠BAF=60度
です。
ここまで来ると、正五角形と正三角形という二つの「きれいな図形」が、一枚の図の中でつながりました。
最後は「対称軸」で54度が出る
ここが、この解法で最も美しいところです。
正三角形ABFでは、
AB=AF
です。
つまり点Aは、BとFから同じ距離にあります。
したがってAは、線分BFの垂直二等分線上にあります。
一方、正五角形BCDEFは左右対称です。
頂点Dと辺BFの中点を結ぶ直線は、正五角形の対称軸になります。したがってDも、線分BFの垂直二等分線上にあります。
AとDがともに同じ垂直二等分線上にあるので、直線ADは正五角形の対称軸になります。
正五角形の頂点Dの内角は108度です。
対称軸ADはこの108度を二等分するので、
108度÷2=54度
です。
よって、
∠CDA=54度
と求められます。
ここでは「108度だから半分にして54度」と突然計算しているのではありません。
正五角形を作る
↓
60度が生まれる
↓
正三角形ができる
↓
AがBFの垂直二等分線上に乗る
↓
ADが正五角形の対称軸になる
↓
108度が二等分される
という一本の道筋があります。
この途中を省略しないことが、図形問題を「分かったつもり」にしないために大切です。
第30回記念イベントではどんな別解が集まったのか?
約100名が挑戦した第30回大会記念イベントでは、正五角形と正三角形だけでなく、まったく異なる入口から角Dへ近づく答案が紹介されました。
ここでは、考え方の違いが特に分かりやすい四つを見ていきます。
応募者 注目したもの 主な発想
中野竜さん 168度と108度 正三十角形、60度、正三角形
Masaさん 四角形ABCD 平行移動、合同、正三角形
五十嵐柊司さん 三角形BCD 回転、正五角形、線対称
Mastiffさん 円の構造 外接円、円周角、168度を直接使わない方法
表だけを見ると、同じ問題とは思えないほど入口が違います。
しかし、共通しているものがあります。
それは、問題文に見えている図を、そのままの形で処理し続けていないことです。
中野竜さん|168度から正三十角形を見る
当時、東京都の小学6年生だった中野竜さんは、168度から正三十角形を連想しました。
正三十角形の一つの内角は、
180度-360度÷30
=180度-12度
=168度
です。
168度を正三十角形の内角として見るだけでも、かなり特徴的な発想です。
さらに、
168度-108度=60度
と考え、60度から正三角形へつなげました。
正三十角形を30辺すべて描かなければならないわけではありません。
大事なのは、
「168度という数字は、正多角形の内角ではないか」
と疑うことです。
これは、難しい数字を見たときに非常に役立つ習慣です。
12度なら正三十角形の外角、168度ならその内角です。
数字を単なる計算材料ではなく、図形の名前へ変換する。中野さんの答案は、その考え方をよく示しています。
Masaさん|四角形をずらして合同な図形を見る
大阪府の小学4年生だったMasaさんは、四角形ABCDをずらして重ねる発想を示しました。
合同な図形を平行移動させることで、正三角形や二等辺三角形が現れる構成です。
これは補助線を考えるとき、とても参考になります。
初心者の方は「一本、新しい線を引かなければ」と考えがちですが、図形問題で必要なのは必ずしも線を増やすことではありません。
すでにある図形をそのまま動かしても、
- 辺の長さ
- 角度
- 図形の形
は変わりません。
そこで、離れていて使いにくかった等しい辺を近づけることができます。
今回ならAB=BC=CDという条件は、最初から十分に強い情報です。
問題は「等しい」という情報が、元の配置では一度に見えにくいことです。
そこで図形を移動し、等しい辺が働きやすい位置へ並べ直すわけです。
私は、これは大人の学び直しにも覚えやすい見方だと思います。
「新しい情報を作る」のではなく、「すでにある情報を見やすい場所へ運ぶ」と考えると、平行移動の目的がはっきりします。
五十嵐柊司さん|三角形BCDを回転させる
東京都の小学6年生だった五十嵐柊司さんは、三角形BCDを回転させる方法を使いました。
紹介された答案では、三角形BCDを回転させることから正五角形が現れ、さらに正三角形、線対称、等脚台形、二等辺三角形などの関係がつながっていきます。
ここで注目したいのは、一つの図形操作から複数の性質が現れている点です。
回転させても、
辺の長さは変わりません。
角度も変わりません。
図形そのものの形も変わりません。
つまり回転は、長さと角度という二種類の情報を保ったまま、場所だけを変えられる操作です。
この性質が、AB=BC=CDのような「等しい辺」が多い問題とよく合います。
一つの回転で、合同、二等辺三角形、正多角形、対称性まで見えてくるなら、その操作は非常に情報効率の高い一手だといえます。
Mastiffさん|円周角なら168度を直接使わない
神奈川県の47歳の社会人だったMastiffさんは、さらに違う方向から問題を捉えました。
紹介された考え方では、外接円の中心が辺AD上にあることなどを利用し、168度という条件を直接使わなくても解けることが示されています。
円周角を利用することで、四角形の角度問題を「円の問題」へ言い換えたわけです。
これは非常に興味深い例です。
問題文に168度と書いてあれば、普通は「この168度をどこで使うのだろう」と考えます。
ところが別の構造を見つけると、その条件を直接計算に入れなくても結論へ進める場合があります。
もちろん、与えられた条件を勝手に無視してよいという意味ではありません。
ある条件が、別に見つけた構造の中ですでに保証されているなら、解法によっては表に出てこない条件もあるということです。
これは「全部の数字を一度ずつ使わなければならない」という思い込みを外す好例だと私は考えます。
補助線が思いつかないときは何を順番に見る?
算数オリンピックの図形問題を前にして、「補助線が思いつかない」と感じるのは自然なことです。
私自身、長く学びを続けてきて感じるのは、補助線は白紙から突然ひらめくものというより、条件を分類して候補を減らしていく作業に近いということです。
今回の2006年問題から、次の順番を取り出せます。
1.特徴的な角度を探す
まずは、知っている図形と結び付きやすい角度を確認します。
30度、45度、60度、72度、90度、108度、120度などです。
今回なら108度が目立ちます。
108度を見たら、
「正五角形ではないか」
と考えます。
直接その角度が見つからなくても、和や差を取ります。
今回は、
168度-108度=60度
です。
ここで正三角形が候補になります。
難しい角度を難しいまま眺めないことです。
2.等しい辺を数える
次に、同じ長さの辺へ目を向けます。
今回なら、
AB=BC=CD
という三本です。
等しい辺が二本あれば二等辺三角形が候補になります。
三本がうまく集まり、間の角が60度になれば正三角形が作れます。
正五角形を補えば、さらに等しい辺を増やせます。
このため補助線を引く前に、
「どの辺とどの辺を隣り合わせれば、知っている図形になるだろう」
と考える方が効率的です。
3.正多角形の一部分ではないかを見る
108度なら正五角形です。
168度なら正三十角形です。
72度なら正五角形の外角、60度なら正六角形や正三角形が候補になります。
大切なのは、正多角形を全部描くことではありません。
その角度が正多角形から来ていると考えるだけで、
「辺が等しくなる」
「対称軸ができる」
「外角が決まる」
といった性質を使えるようになります。
今回の標準的な解法も、正五角形を補うことで一気に情報が増えました。
4.図形を動かせないか考える
それでも見えなければ、
平行移動、回転、線対称
を考えます。
ここで意識したいのは、図形を動かす目的です。
ただ動かすのではありません。
離れている等しい辺を集めるために動かす。
分かっている角度を、使いたい場所へ運ぶために動かす。
この目的があると、候補を絞れます。
Masaさんの平行移動や五十嵐さんの回転は、まさにこの考え方です。
5.円へ入れると角度がつながらないかを見る
最後に、直線だけの図として考えるのをやめて、円へ入れられないかを検討します。
四つの点が同じ円周上にあることを示せれば、円周角によって離れた場所の角度が結び付きます。
Mastiffさんの例が示したように、円として見直した途端、元の問題では重要に見えた条件が表面から消えることさえあります。
算数オリンピック図形問題で発想を選ぶ基準とは?
候補をたくさん覚えるだけでは、「正三角形も円も回転も全部試さなくてはいけない」となり、かえって迷います。
そこで私は、角・辺・動きの三層で見る方法が分かりやすいと考えています。
まず「角」を見ます。
60度、72度、90度、108度など、名前のある図形につながる角があるかを探します。
次に「辺」を見ます。
同じ長さが二本、三本とあるなら、その等しさを一つの三角形や正多角形の中へ集められないかを考えます。
最後に「動き」を見ます。
角と辺がそろっているのに位置が悪ければ、平行移動や回転によって情報を重ねます。
この三層で今回の問題を見ると、とても整理しやすくなります。
まず108度があります。
正五角形が候補です。
次にAB=BC=CDがあります。
正五角形を補えば、正五角形の辺BFまで同じ長さになり、AB=BFを作れます。
さらに168度-108度=60度です。
AB=BFで間の角が60度なら正三角形ABFになります。
そして正三角形と正五角形が同じ辺BFを共有した結果、垂直二等分線という共通の対称軸が生まれます。
こうして54度へ到達します。
つまりこの問題の補助線は、「偶然そこに線を引いたら解けた」のではありません。
角→正五角形、辺→正三角形、対称性→二等分線という順番で、必要な線が自然に決まっています。
「何が増える補助線か」で良し悪しを判断する
ここで、補助線を考える際のもう一つの基準があります。
私はこれを補助線の情報効率と捉えています。
一本の線を引いて、
「角が一つ分かった」
だけなら、それが核心の補助線かどうかはまだ分かりません。
しかし一本の線や一つの図形変換によって、
辺が等しい
角度が決まる
合同が見える
対称軸ができる
二等辺三角形ができる
というように、複数の条件が同時に働き始めるなら、その一手は有力です。
今回の正五角形の完成はまさにそうです。
正五角形を作るだけで、
辺がすべて等しくなり、108度が増え、対称軸が生まれます。
さらにBF=ABとなるため、60度と組み合わせて正三角形まで現れます。
よい補助線は、一本の線で一つの事実を作る線ではなく、眠っていた複数の条件を同時に起こす線だと考えると、見極めやすくなります。
一問から図形の発想力を伸ばすにはどう復習する?
この2006年問題のような一問は、答えを54度と確認して終えるには少し惜しい問題です。
第30回大会記念イベントで約100名から多様な答案が寄せられたことからも分かるように、一つの問題を複数の構造として見直せる教材だからです。
解答全文より「最初の一手」を残す
学び直しをしていると、きれいな解説を丸ごとノートに写したくなることがあります。
しかし後から役に立つのは、長い解答より「何を見て、その発想に入ったか」です。
今回なら、
「108度→正五角形」
「168度-108度=60度→正三角形」
「等しい辺が離れている→移動」
「三角形BCD→回転」
「四点の関係→円」
という入口だけを短く残します。
次に似た角度問題を見たとき、
「108度は前にも正五角形で使った」
と思い出せれば、解法は単なる知識から自分の道具へ変わります。
年齢を重ねてからの学びでは、すべてを一度に覚えようとする必要はありません。
むしろ、一問から一つか二つの「入口」を確実に持ち帰る方が、長く残ると私は感じています。
解けた後に別解を見る
自力で正五角形を使って54度が出たとしても、そこで終わりではありません。
次は、
「平行移動なら何を重ねているのか」
「回転なら、どの長さと角度が保存されているのか」
「円周角の方法では、なぜ168度を直接使わなくてよいのか」
と見直します。
このとき、別解をもう一度暗記する必要はありません。
同じ問題のどこを違って見ているのかを比べることが大切です。
正五角形の解法は「角度から図形を作る見方」です。
平行移動は「等しい辺を並べ直す見方」です。
回転は「長さと角度を保ったまま位置を変える見方」です。
円周角は「四角形を円の構造へ入れ替える見方」です。
この違いが分かれば、一問から四問分、五問分の経験を得ることができます。
私見|この問題の本質は「補助線」より条件の翻訳にある
今回の2006年算数オリンピック・トライアル問題を見直して、私が特に大切だと感じるのは、補助線を当てること自体が本質ではないという点です。
完成図だけを見れば、「こんな正五角形を思いつくはずがない」と感じる方もいるでしょう。
しかし順番を戻してみると、決して何もないところから正五角形が現れたわけではありません。
108度があります。
正五角形の内角も108度です。
BC=CDです。
正五角形なら隣り合う辺は等しくなります。
168度から108度を引けば60度です。
60度と等しい二辺があれば正三角形へ進めます。
こうして見ると、補助線は「天才的なひらめき」というより、与えられた条件を一つずつ知っている図形へ翻訳した結果として現れています。
同じ問題でも「何の問題か」は変えられる
中野竜さんは、168度を正三十角形の問題として見ました。
Masaさんは、合同な四角形を移動する問題として見ました。
五十嵐柊司さんは、回転と正五角形の問題として見ました。
Mastiffさんは、円周角の問題として見ました。
元の問題文は一つなのに、「これは何の問題なのか」という捉え方は一つではありません。
私はこの点こそ、算数オリンピックの問題から大人も学べる部分だと思います。
難しい問題に出会ったとき、
「この形のまま解かなければならない」
と考える必要はありません。
「正五角形の問題だとしたら?」
「図形移動の問題だとしたら?」
「円の問題だとしたら?」
と、問題そのものに別の名前を付け直してみます。
名前が変わると、使える道具も変わります。
168度を使わない解法が教えてくれること
Mastiffさんの解法は、さらに一歩踏み込んだ見方を教えてくれます。
問題文では168度が非常に目立ちます。
標準的な解法でも、
168度=108度+60度
という分解が重要です。
ところが円を利用する見方では、168度を直接使わずに解けると紹介されました。
これは、条件には解法によって役割の重さが変わるものがあることを示しています。
一つの解法では核心だった数字が、別の解法では結果として自動的に決まる場合があります。
私はここから、「与えられた数字を全部順番に消費しようとしない」という姿勢も学べると考えます。
算数の問題は、数字を一つずつ使い切るパズルではありません。
どの条件が他の条件を生み、どの条件が本当に独立しているのかを見ることも、理解を深める一歩です。
補助線は「線」ではなく「関係」を作るもの
初心者の頃は、補助線という言葉を聞くと、どうしても「どこに一本引くか」という位置探しになりがちです。
しかし今回の問題では、一本の線そのものより、
正五角形を作る
正三角形を作る
対称軸を作る
という関係の設計が先にあります。
どの図形を作るかが決まれば、必要な線は後から決まります。
その意味で、私はよい補助線とは「新しい線」ではなく、すでに与えられていた条件同士を会わせる線だと考えています。
AB=BC=CDという長さの条件。
168度と108度という角度の条件。
これらは最初、別々に置かれています。
正五角形と正三角形を補った瞬間、その二種類の条件が同じ場所で働き始めます。
そこに、この問題の美しさがあります。
まとめ
2006年の算数オリンピック・トライアルで出題された図形問題は、AB=BC=CD、∠ABC=168度、∠BCD=108度から、∠CDA=54度を求める問題です。
当時の正答率は15.5%でしたが、難しさは複雑な計算ではありません。
108度を正五角形へ翻訳し、168度-108度=60度から正三角形を作り、正五角形と正三角形に共通する垂直二等分線を見つけることが核心です。
正五角形BCDEFを完成させるとBF=BC=ABとなり、∠ABF=60度なので三角形ABFは正三角形になります。
AとDはともにBFの垂直二等分線上にあるためADが正五角形の対称軸となり、Dの108度を二等分して、
108度÷2=54度
と求められます。
2021年の第30回大会記念イベントでは、この問題に約100名が挑戦し、正三十角形、平行移動、回転、正五角形、円周角など異なる発想が紹介されました。
一つ一つの完成した解法を暗記する必要はありません。
角度を知っている図形へ翻訳する。等しい辺を集める。図形を動かす。正多角形を補う。円として見直す。
この五つの視点を持っておけば、別の図形問題でも使えます。
私見では、補助線を思いつく力とは「不思議な一本を突然当てる力」ではありません。
108度から正五角形、60度から正三角形というように、目の前の条件を一つずつ知っている形へ置き換え、複数の条件が同時に働く場所を探す力です。
難問に出会ったときも、すぐに答えへ走る必要はありません。
「この角度を、私はどこかで見たことがないだろうか」。
その小さな問いから始めるだけで、複雑に見えた図の中に、思いのほか身近な図形が静かに姿を現します。
よくある質問
2006年算数オリンピック・トライアル図形問題の答えは何度ですか?
角D、つまり∠CDAは54度です。
108度から正五角形を完成させ、168度-108度=60度を利用して正三角形を作ると、直線ADが正五角形の対称軸になります。そのため108度が二等分され、54度と求められます。
なぜ108度を見ると正五角形を考えるのですか?
正五角形の一つの内角が108度だからです。
さらに今回の問題ではBC=CDなので、「等しい二辺と108度」という条件が正五角形の隣り合う二辺と内角にそのまま一致します。角度だけでなく、辺の長さまで条件が合うことが重要です。
算数オリンピックの図形問題で補助線が思いつかないときはどうすればよいですか?
まず30度、45度、60度、72度、90度、108度など、特徴のある角度を探してください。
次に等しい辺を確認し、正三角形、二等辺三角形、正五角形などを作れないか考えます。それでも難しければ、平行移動、回転、線対称、円という順に見方を変えると整理しやすくなります。
執筆:天水健太郎(元行政職員・生涯学習コラムニスト)


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