数学オリンピック初心者には、2024年JMO予選の問1と問4が「式の整理」と「逆算」を学ぶ良い入口です。
この記事では2問を正確な式で解き直し、「なぜその一手を選ぶのか」まで丁寧に説明します。2026年の最新JMOデータも確認しながら、初めて過去問に触れる方の練習方法まで整理します。
数学オリンピックに簡単な問題はある?JMO予選の入口を整理
結論から言えば、数学オリンピックにも初心者が学びやすい問題はあります。ただし、「第1問だから簡単」「前半だから誰でも解ける」という意味ではありません。
この記事で扱うのは、2024年1月8日に実施された第34回日本数学オリンピック(JMO)予選の問1と問4です。同予選は3時間で12問、各問1点、解答欄には答えだけを書く形式で実施されました。
ここで大切なのは、数学オリンピック財団が問1や問4を公式に「初心者向け」と分類しているわけではないことです。
私がこの2問を入口として取り上げる理由は、問1では大きな数を実際に計算せず構造を見る方法、問4では結果から逆向きに必要条件を考える方法が、比較的はっきり見えるからです。
つまり、「簡単」というよりも、解説を通じて重要な発想を学びやすい問題と考えるのが適切でしょう。
JMOそのものは決して易しい大会ではありません。
第34回JMO予選は5,092人が応募し、4,611人が参加しました。Aランクは6点以上の137人で、12点満点と11点は0人、最高得点は10点でした。
さらに第36回JMO予選では4,525人が応募し、3,992人が参加しています。Aランクは7点以上の170人で、12点満点は0人、11点と10点もそれぞれ1人でした。
大会 参加者 Aランク 得点分布から分かること
第34回JMO・2024年 4,611人 6点以上・137人 12問全部を解く必要はないが、6点でも上位層
第36回JMO・2026年 3,992人 7点以上・170人 合格ラインは年度によって変わる
この数字を見ると、初心者が「12問中1問しか分からなかった」と落ち込む必要がないことも分かります。
むしろ最初の段階では、一問を最後まで理解し、発想を自分の言葉で説明できることの方が大切です。
なお、第37回JMO予選は2026年11月15日午後1時から4時までの予定で、応募期間は2026年7月1日から9月10日です。応募資格は2026年11月時点で大学教育またはそれに相当する教育を受けていない20歳未満で、受験料は5,000円とされています。
試験内容は高校程度を前提に、整数、幾何、組合せ、式変形などが題材となり、微積分、確率統計、行列は範囲外です。予選は現在も3時間12問の答えのみを記す方式です。
したがって、私のような中高年が学び直しとして楽しむ場合、大会への出場そのものが目的にはなりません。
それでも過去問には十分な価値があります。競技の順位から離れて一問をじっくり眺めると、「こんな見方があったのか」という数学ならではの小さな驚きを味わえるからです。
では、実際の2問を見ていきましょう。
2024年JMO予選問1の答えは122/11|階乗をどう整理する?
2024年JMO予選の問1では、次の値を既約分数で表すことが求められました。
√{(123!−122!)/(122!−121!)}
公式の解答用紙に示された答えは、122/11です。
この問題で初心者が最初につまずきやすいのは、「123!」という大きな数字でしょう。
123!は、123から1までの正の整数をすべて掛けた数です。
これを実際に計算しようとしてはいけません。
この問題が見ているのは計算速度ではなく、階乗どうしに共通している部分を見つけられるかだからです。
最初の一手は123!を計算することではない
階乗には、
123!=123×122!
という関係があります。
したがって分子の `123!−122!` は、
123!−122!
=123×122!−122!
=122!×(123−1)
=122!×122
と整理できます。
同じように、分母の `122!−121!` について考えます。
122!−121!
=122×121!−121!
=121!×(122−1)
=121!×121
です。
ここまで来れば、最初は巨大に見えた式がずいぶん小さくなりました。
元の平方根の中は、
(122!×122)/(121!×121)
となります。
さらに、
122!=122×121!
なので、
(122×121!×122)/(121!×121)
となり、121!を約分できます。
残るのは、
122²/121
です。
121=11²ですから、
√(122²/121)
=√(122²/11²)
=122/11
となります。
したがって答えは、
122/11
です。
122と11には共通因子がないので、これが既約分数になっています。
問1で覚えたいのは答えではなく「形を見ること」
この問題を解いたあと、122/11という答えだけを覚えても、別の問題にはあまり役立ちません。
持ち帰りたいのは、大きな数が現れたときほど、直接計算する前に共通部分を見るという考え方です。
階乗では、
n!=n×(n−1)!
という一段前との関係が非常に重要です。
たとえば `100!−99!` という式があれば、100!を計算するのではなく、
100!−99!
=100×99!−99!
=99!×99
と瞬時に小さくできます。
私は、数学オリンピックの問題を初めて読む方には、数字を見た瞬間に計算を始めないことをおすすめしています。
まず十秒ほど手を止め、
「同じ部分はないだろうか」
「何かでくくれないだろうか」
「一段前の形へ戻せないだろうか」
と眺めてみるのです。
学校の計算問題では、手を動かせば前へ進む場面も多いものです。
ところが数学オリンピックでは、たくさん計算する前に、計算しなくてよい形へ変えることが大切になります。
ここは初心者にとって、最初に覚えておきたい大きな違いでしょう。
2024年JMO予選問4の答えは2883|なぜ3の5乗を逆算する?
2024年JMO予選の問4では、黒石と白石を合計 `5⁵` 個、つまり3,125個横一列に並べます。
黒石をn個、白石を `5⁵−n` 個とし、左から5個ずつの組に分けます。それぞれの組を、その5個の中で多い色の石1個へ置き換え、この操作を合計5回繰り返します。
問題が求めているのは、最初の並べ方がどのようなものであっても、最後の1個を必ず黒石にするために必要な黒石の最小個数です。
公式解答は 2883 です。
3,125個という数字を見ると、「石の並べ方をたくさん試さなければならないのでは」と思うかもしれません。
しかし、ここでも力ずくの調査は必要ありません。
鍵になるのは、問いを反対側から見ることです。
黒を必ず残す条件を直接探すのではなく、白が最後まで残れてしまう最小条件を探します。
最後を白にするには直前に白が最低3個必要
最後の操作では、5個の石を多数決で1個にします。
最後の1個を白石にするには、その直前の5個のうち白石が少なくとも3個必要です。
2個しか白がなければ、黒3個に負けてしまいます。
したがって、
最後の白1個には、一段前の白が最低3個必要
です。
では、その白3個はどこから来るのでしょうか。
一つ前の段階でも、白1個を作るには最低3個の白が必要です。
したがって白3個を作るには、
3×3=3²=9個
が必要になります。
もう一段戻れば、
3³=27個。
さらに戻れば、
3⁴=81個。
最初の石まで5段階戻れば、
3⁵=243個
です。
つまり、最後の1個を白石にするには、最初に少なくとも243個の白石が必要だと分かります。
「243個必要」だけではなく「243個あれば可能」も確かめる
ここは、この問題で最も大切なところです。
単に3を5回掛けて243になっただけでは、「白石が243個あれば本当に最後を白にできるのか」が残っています。
そこで、逆算した形を実際に作れることを確認します。
最終段階の5個のうち3個を白にしたいなら、その3個につながる一つ前の組を、それぞれ白多数にします。
白多数の1組を作るには、5個のうち3個を白にすれば足ります。
同じ作り方を一段ずつ繰り返せば、「3つの白を作るために、その下へ3つずつ白を用意する」という枝分かれした構造ができます。
5段階すべてでこれを行えば、必要な白石は、
3×3×3×3×3=243個
です。
したがって243個は単なる下限ではなく、実際に最後を白へ導ける最小個数になっています。
ここを「必要性」と「実現可能性」の両方から確認すると、解答がずっと確かなものになります。
白が242個以下なら最後は必ず黒になる
白石が243個あれば、配置によって最後を白にできます。
それなら「どんな並べ方をしても黒が残る」ためには、白石を243個未満にしなければなりません。
白石の最大数は242個です。
石は全部で3,125個ありますから、
3125−242=2883
です。
よって黒石の最小個数は、
2883個
となります。
この解答の面白いところは、3,125個もの石を一つずつ追いかけていない点です。
最後の多数決で必要な「5個中3個」という情報だけを残し、それを5段階さかのぼっています。
問4は「木の形」で見るとさらに分かりやすい
この問題には、もう一つ便利な見方があります。
最後の白石1個を木の幹だと考え、その一段下には白石が最低3個必要だと考えます。
その3個の白の下には、それぞれ3個ずつ必要です。
すると、
1
→3
→9
→27
→81
→243
という枝分かれになります。
私はこの見方が、初心者には特に分かりやすいと感じます。
`3⁵` という式を突然思いつく必要はなく、「一段戻るたびに3倍になる」ことを順番に確認すればよいからです。
さらに、この考え方は問4だけの特殊な技ではありません。
「どんな場合でも成立させたい」という保証問題では、その反対にある失敗できる最小条件を考えると見通しがよくなることがあります。
「黒を何個置けば大丈夫か」ではなく、
「白が勝ててしまうには最低何個必要か」
と問い直したところで、この問題は急に整理されるのです。
数学オリンピック初心者は簡単な問題をどう練習すればいい?
初心者の練習で大切なのは、難問を大量に消化することではありません。
一つの問題から「次にも使える考え方」を一つ持ち帰ることです。
第34回JMO予選では、4,611人の参加者のうちAランクは137人でした。第36回でも3,992人の参加者に対しAランクは170人ですから、予選の数問を取ること自体が決して当たり前ではありません。
初心者が12問全部を基準に自分を評価してしまうと、学習の入口としては少々厳しすぎます。
私なら、最初は次のように取り組みます。
- 10~20分は自分で考える。 完答できなくても、「くくれそう」「小さい場合を試せそう」「逆から考えられそう」という入口を一つ探します。
- 解けなかった過程もノートに残す。 何を試して、どこで止まったのかを書いておくと、次の問題で同じ迷いに早く気づけます。
- 解説を読んだら最初の一手を一文にする。 問1なら「階乗を共通因子でくくる」、問4なら「白が勝つ最小条件から逆算する」です。
- 翌日に白紙でもう一度解く。 解答を見ずに筋道を再現できれば、「分かったつもり」から一歩先へ進めています。
特におすすめしたいのは、正解を書き写すだけで終わらせないことです。
問1なら「なぜ123!を計算しないのか」、問4なら「なぜ242では白が勝てないのか」を、自分の言葉で説明してみてください。
説明できない部分があれば、そこがまだ曖昧なところです。
これは年齢を重ねてからの学び直しでも同じです。
一度読んだだけで忘れてしまうことを恐れるより、忘れたあとでもう一度組み立て直す方が、知識はゆっくり定着していきます。
私は弓道を長く続けていますが、基本の動作は一度覚えれば終わりというものではありません。
数学も似ています。式をくくること、条件を逆向きに見ること、小さな場合へ戻ることを何度も繰り返すうちに、初めて見る問題でも「何か似た考え方が使えないか」と気づけるようになります。
また、問題番号だけで難度を決めないことも大切です。
2024年は6点以上、2026年は7点以上がAランクだったように、予選の得点分布は年度によって変わります。
数学オリンピック財団の予選結果ページで公表されているのは総得点の分布です。
したがって、問1や問4について「正答率が何%だから簡単」といった根拠のない数字を付けるのではなく、実際に問題を読み、自分にとってどこまで手を動かせるかで判断する方が誠実です。
考察|2問に共通するのは「計算力」より情報を減らす力
ここからは筆者としての考察です。
2024年JMO予選の問1と問4は、見た目こそまったく異なります。
問1には巨大な階乗が現れ、問4には3,125個もの黒石と白石が登場します。
ところが、解き方を並べてみると、一つの共通点があります。
どちらも、最初に与えられた情報をそのまま全部扱ってはいません。
問1では123!という巨大な数を計算せず、階乗どうしに共通する121!や122!という部分だけに注目しました。
問4では3,125個の石の位置を一個ずつ追わず、「白を一段上へ残すには3個必要」という条件だけを取り出しました。
私は、この「情報を減らす」という感覚こそ、数学オリンピック入門で味わってほしいところだと考えています。
難しい問題を見ると、私たちはつい「もっとたくさん計算しなければ」と思いがちです。
しかし実際には逆で、何を考えなくてよいかを見つけた瞬間に問題が簡単になることがあります。
問1では、「123!そのものの値」は必要ありません。
問4では、「すべての石の細かな配置」も必要ありません。
必要な情報だけ残せば、
問1は「共通因子をくくる問題」になり、
問4は「3倍を5回さかのぼる問題」になります。
もう一つ、問4から特に学びたいのは、答えを証明するときの二方向です。
白石243個について、「最後が白なら少なくとも243個必要」と示すだけでは半分です。
「243個あれば、実際に最後を白へできる配置が作れる」と示して初めて、243が本当に境界だと分かります。
これは数学でよく現れる考え方です。
これより少なくては無理であることと、この数なら実現できることを両方確認する。
この二つを意識するだけでも、解答の読み方が変わってきます。
答えが合っているかだけでなく、
「下限を示したのか」
「その下限を達成できることまで示したのか」
と確認できるからです。
初心者向けという観点では、この点で問4は非常に良い教材だと私は感じます。
一見すると3,125個もの石を扱う大問題ですが、本質を取り出すと「多数決では3個必要」という小さな事実の繰り返しだからです。
そして問1も同じです。
巨大な階乗を見て驚いても、一段戻せばすべて学校数学の基本的な掛け算と約分に戻ります。
数学オリンピックの「簡単な問題」とは、必ずしも一目で答えが見える問題ではありません。
少し考えることで、複雑なものが急に小さく見える経験をさせてくれる問題こそ、入門には向いているのではないでしょうか。
私は学び直しを続ける中で、正解数だけを上達の物差しにしないことを大切にしています。
以前なら123!を計算し始めていたのに、今日は「くくれるのでは」と気づいた。
以前なら3,125個の並べ方に途方に暮れていたのに、今日は「最後から戻ってみよう」と考えられた。
その変化も立派な前進です。
数学オリンピックでは一問の答えにたどり着くこと以上に、「ものを見る角度」が一つ増えることがあります。
競技に参加しない大人にとっても、そこに過去問を楽しむ価値があると私は考えています。
まとめ
数学オリンピック初心者が過去問に挑戦するなら、最初から最難関問題を選ぶ必要はありません。
2024年JMO予選問1では、
√{(123!−122!)/(122!−121!)}=122/11
となり、鍵は巨大な階乗を計算するのではなく、共通因子で整理することでした。公式解答も122/11です。
問4では、最後を白にするために一段前で最低3個の白が必要だと逆算します。
5段階戻ると白石は最低 `3⁵=243` 個必要なので、どんな配置でも黒を残すには白石を242個以下にしなければなりません。
そのため黒石の最小個数は、
3125−242=2883個
となります。こちらも公式解答は2883です。
この2問から学べるのは、「階乗」や「石の多数決」という個別の知識だけではありません。
共通部分を見る、逆から考える、不要な情報を捨てる、境界を必要性と実現可能性の両方から確かめる。
これらは、より難しい数学オリンピック問題へ進んだときにも役立つ基本姿勢です。
最初の目標を12問完答に置く必要はありません。
まず一問について、「なぜ最初にその一手を選ぶのか」を自分で説明できるところまで考えてみてください。
一問を深く理解する経験が、次の一問を少し近くしてくれます。
よくある質問
数学オリンピックに初心者でも解きやすい問題はありますか?
ありますが、公式に「初心者向け」と分類されているわけではありません。
JMO予選の過去問から、式変形や具体例を試しやすい問題を選び、一問ずつ考える方法がおすすめです。問題番号だけで難度を決めず、数分読んで何か手を動かせそうかを基準にするとよいでしょう。
2024年JMO予選問1の答えは何ですか?
122/11です。
式は `√{(123!−122!)/(122!−121!)}` で、分子と分母を階乗の共通因子でくくると平方根の中が `122²/121` となります。121=11²なので、答えは122/11です。
2024年JMO予選問4はなぜ2883になるのですか?
最後を白にするには5個中最低3個が白である必要があり、それを5段階さかのぼると、最初に最低 `3⁵=243` 個の白石が必要です。
したがって白石が242個以下なら最後は必ず黒になります。全体は `5⁵=3125` 個なので、必要な黒石の最小数は `3125−242=2883` 個です。
執筆:天水健太郎(元行政職員・生涯学習コラムニスト)


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