お正月に神社に初詣をすると、邦楽が聞こえてくると思います。これは何の曲でしょう。
可能性は二つあります。ひとつは箏と尺八による「春の海」です。でもこれは20世紀に作曲された音楽です。
もう一つは笛と太鼓と琵琶、箏によるオーケストラのようなものです。これが今回ご紹介する「平調越天楽(ひょうじょうえてんらく)」というものです。これを題材に雅楽の世界の解説をしたいと思います。
平調越天楽はどんな感じの曲か
これは一度Youtubeで聞いていただくのが一番簡単なのですが、龍笛譜をドレミで表すと次のようになりますので、これを歌いながら聞けばイメージがわかるかと思います。
①レーミーシ、シーラーシ、ミーミレミ、ミッミー。レーミッミ、ファーソラーファラミ、ミーレーミ、ミッミー。
②シーシーラシ、シラファーソ、シーラシ、ミーシーラ。ファーソラ、シーラファソーミ、ミーレーミ、ミッミー。
③ミーミーッミ、ミレシ―、ファーソッシラ、ラーラー。ドーレード、ドオラーッラ、ラーラーラー。下線が入っているのは低い音を示します。
正式には①を2回、②を2回、③を2回、その後①を2回、②を2回で終わります。最後のところが、特別な終わり方がありますが、ここでは省略します。これで11分から12分です。
これでも長いので、私なんかは、①、②、③、①、②で終わらしてしまいます。それでも5分程度ですから、忙しい現代人にはこれでよいのでしょう。
Youtubeで演奏時間が5、6分のものはこのバージョンです。
①の前半はゆっくり始まります、ここらはかなり聞き覚えがあると思いますし、龍笛と鞨鼓ぐらいですからメロディーも聞き取れるでしょう。
でも後半に入ると、一斉に篳篥とか太鼓が入ってきて、すごい状態になるので、メロディーを知っていないと聞き取れなくなります。
ここら辺が、雅楽の人気が上がらない理由かと思います。つまり何を聞いても区別がつかなくなるのです。
②の前半は少し聞こえるかもしれません。後半でだんだん音程が上がってきて、最高音のシが出てきます。
ここら辺の節回しが、黒田節の「こーれーぞまことの黒田節」に似ているところで、いわゆる盛り上がりのところです。
③に入ると、曲想が変わりますので、転調をしているところです。これが終わるとまた①、②となって終わりになります。
平調越天楽はどんな時に演奏されるの
「越殿楽」とも書かれて、高貴な方が退出されるときに演奏される楽曲となっております。つまり退場行進曲です。
今では、こんなこともすっかり忘れ去られて、おめでたければなんでもこの曲で済ましてしまっています。
この越天楽にはここで紹介した平調(ひょうじょう)越天楽のほかに、黄鐘調(おうしきちょう)、盤渉調(ばんしきちょう)の越天楽があります。
通説では、平調は秋(冬という説もある)、黄鐘調は夏、盤渉調は冬(秋という説もある)ですが、他の2曲は片隅に追いやられて、平調のみが延々と演奏されるわけです。
また、西洋音楽と違って調子が変わると節回しが変わるので、単に移調したものではなく別物と考えたほうが良いくらいです。
それでも黄鐘調越天楽と盤渉調越天楽は両者それなりに関連性があって、通常の雅楽の曲に近いのです。
平調越天楽はむしろ日本に入ってきて、日本人好みに変形してしまったようにしか感じられません。そのため、黒田節にも近いし日本人が親しみを持てる曲になっているのだと思います。
興味本位に探ってみると、越天楽はあるかどうかわかりませんが、平安時代の曲を再現した演奏が京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センターのホームページで出ています。
現在の主流になっている雅楽の曲とは全く異なったものになっています。昔の復刻はどちらかと言えばシンプルで、かすかにシルクロードのイメージが出ている曲に感じられます。
現代の雅楽は明治になって各団体が保有している楽曲を持ち寄ってまとめたものと聞いていますので、その間に相当の変遷があったものと想像されます。
その他に聞かれる雅楽はどういうものがあるの
私もそれなりに注意して聞いているのですが、実際に神社で演奏されているのは、五常楽が2回ほどしかありませんでした。
五常楽も比較的簡単で分かりやすい曲ですので、越天楽の次に親しむには適切かもしれません。でも、シンプルな曲であるため、演奏会には使われていないようです。
ただ、神社でも演奏会になれば、それなりの演目を出してきているので、曲のバリエーションは広がってくるでしょう。
最初の方はメロディーラインがわかるのですが、越天楽と同様、最初の2節が過ぎると、音の洪水になって聞き取れなくなってしまいます。
結局メロディーラインがわからないままに過ぎてしまうので、記憶に残らなくなってしまいます。
次のラインとしてポピュラーなものを上げておきます。
五常楽(ごしょうらく)
平調の曲です。唐の太宗が作ったといわれています。先ほども紹介しましたが、シンプルでわかりやすい曲だと思います。
守るべき五つの徳目、仁義礼智信を示したといわれていますが、曲との関係は分かりません。
酒胡子(しゅこし)
双調(そうちょう)の曲です、春の調子です。宴会で酒の徳利がころがる様子を示しているといわれています。とてもシンプルで軽快な曲です。新田次郎の笛師にも出てくる曲目です。
海青楽(かいせいらく)
黄鐘調の曲です。仁明天皇の時代に神泉苑を船で回る間に曲を作れと命令されて、大戸清上が作曲したといわれている曲です。
青海波(せいがいは)
盤渉調の曲です。源氏物語の紅葉の賀の巻で、光源氏と頭中将が舞を舞った曲と言われています。青海は中国奥地の青海のことと言われております。
陪臚(ばいろ)
平調の曲です。聖徳太子が物部守屋を討つときに奏した曲で、この楽曲を演奏しているとき、舎毛音(しゃもうおん。どんな音か分かりません。)が聞こえれば戦いに負けないといわれている曲です。
題名は大日如来(バイローチャ)がなまって当て字になったものです。リズムがあって力強い曲です。
お正月に神社で聞こえる雅楽の曲名は?のまとめ
お正月に神社で聞こえる越天楽を中心に、雅楽の世界をざっと覗いてみるということで、ご紹介してきましたがいかがでしたでしょうか。
せっかくの日本でお正月をむかえるので、千年以上いろいろな変転を重ねて生き残ってきた雅楽の世界を覗いてみるのもいいかなと思います。
何のきっかけもない人が、越天楽を解説する中で、少しでも親しみを持てたらということで書いてきました。
最後の方は、これをきっかけに、少し知識を広げたい方に、次のステップとして聞いておいたほうがよさそうなポピュラーな曲目を紹介しておきました。
でも、先にふれたように、出現頻度は平調越天楽が9割以上ですから、普通に暮らしていれば出会うこともないでしょう。少しでも興味を持たれた方が、知識の世界を広げることができれば幸いです。
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