数学オリンピックの面白い問題は、計算量より「見方を変える一手」が決め手になる問題です。この記事では、算数オリンピック系5題と国際数学オリンピック(IMO)公式問題3題を、条件・答え・解法の核心まで区別して紹介します。
前半5題については、公式大会・年度を確認できたものと、二次資料で「算数オリンピック問題」として紹介されているものを明確に分けました。後半3題はIMO公式問題PDFと公式大会記録で確認しています。
数学オリンピックの面白い問題8選とは?まず出典と答えを確認
最初に大切なのは、「数学オリンピック」と「算数オリンピック」を混同しないことです。
日本の算数オリンピックは、算数オリンピック委員会が主催する、小学生・中学生が思考力や独創性を競うイベントです。公式サイトも、学習進度を測る一般的なテストではなく、算数や数学を楽しみながら挑戦する大会という位置づけを示しています。
一方、国際数学オリンピック(IMO)は20歳未満で高等教育機関に在籍していない選手を対象とし、2日間に3問ずつ計6問を解きます。1日4時間30分、各問題7点、42点満点という競技です。
今回扱う8題を先に整理すると、次のようになります。
問題 出典の位置づけ 答え・結論
2018年キッズBEEトライアル・長方形D 大会問題として確認 30cm
2021年キッズBEEファイナル・重なる正方形 大会問題として確認 周24cm、面積32cm²
2020年キッズBEEトライアル・4つの袋 大会問題として解説資料で確認 最小42個
中央の正方形 25題紹介記事の発想問題 16cm²
ABCDE×7=FFFFFF 25題紹介記事の発想問題 63492、95238
1990年IMO第3問 IMO公式問題 n=3
1996年IMO第5問 IMO公式問題 RA+RC+RE≧P/2を証明
2009年IMO第6問 IMO公式問題 禁止点を避ける順序は必ず存在
ここで透明性のため、前半2題について少し補足します。
「中央の正方形」と「ABCDE×7=FFFFFF」は、現役教員が運営する「算数オリンピックの問題25選」という記事に実際の条件付きで掲載されています。中央の正方形は「1辺5cmの正方形に斜辺4cmの合同な直角三角形を配置」、ABCDE問題は「A~Eが互いに異なり7ではない」という条件です。
ただし、私が確認した範囲では、この2題の算数オリンピック公式大会の年度・問題番号までは特定できませんでした。
したがって、本記事では「公式過去問」と断定せず、二次資料で算数オリンピック問題として紹介されている算数オリンピック系の発想問題として扱います。
この区別は小さなことに見えますが、数学の記事では重要です。
問題の面白さと、問題の出典の確かさは別の話です。分からない部分を分かったように書かないことも、学びを扱う記事には欠かせない姿勢だと私は考えています。
算数オリンピック系の面白い問題5題|条件・解法・答えまで紹介
ここからは5題を、「問題条件→最初の一手→解法→答え→面白さ」の順で見ていきます。
1.2018年キッズBEEトライアル「長方形D」|答えは30cm
2018年の算数オリンピック・キッズBEEトライアルで出題された問題として紹介されている一題です。
大きな長方形をA、B、C、Dの4つの長方形に分割します。
条件は、
- Aの周りの長さは8cm
- BはAより10cm長い
- CはBより2cm長い
- Dの周りの長さを求める
というものです。
したがって、
A=8cm
B=18cm
C=20cm
です。
最初の一手は、A、B、Cそれぞれの縦横を個別に求めようとしないことです。
図の4区画を縦横の長さで表すと、A、B、Cの周長にはDを構成する辺とAを構成する辺が重複する形で現れます。
そのため、
Dの周長=Bの周長+Cの周長-Aの周長
と整理できます。
計算すると、
18+20-8=30
です。
答えは30cmです。 解説資料でも同じ30cmが示されています。
この問題の面白さは、「長方形なのだから縦と横を求めなければ」と考えた瞬間に遠回りになりやすいところです。
問われているのは周長ですから、最後まで周長のまま扱えばよいのです。
数学では、未知数を細かく分解すれば分かりやすくなるとは限りません。
求めたい量より細かく分けない。
これは代数や図形でも繰り返し役立つ考え方です。
2.2021年キッズBEEファイナル「重なる正方形」|面積は32cm²
2021年キッズBEEファイナルとして紹介されている問題では、縦16cm、横20cmの長方形の内部に2つの正方形を重ねて配置します。
その結果できる3つの長方形の周りの長さが、すべて等しいという条件です。
求めるのは、2つの正方形が重なった長方形部分の周長と面積です。
まず、3つの長方形の周長に現れる辺をまとめると、
(20+16)×2=72
となります。
3つの長方形の周長が等しいため、
72÷3=24
です。
したがって重なった部分の周長も、
24cm
となります。
重なった長方形の縦をア、横をイとすれば、
2×(ア+イ)=24
なので、
ア+イ=12
です。
さらに2つの正方形の辺と外側の16cm、20cmの関係を整理すると、重なり部分は8cmと4cmになります。
したがって面積は、
8×4=32
で、
32cm²
です。
ここでも重要なのは、2つの正方形の一辺を最初からそれぞれ求める必要がない点です。
「重なった部分を求めたい」という目的に合わせて、必要な量だけを取り出しています。
私はこの種の問題を見るたびに、算数の良問は「たくさん計算できるか」よりも、余計な計算をしないで済む見方を発見できるかを問うものだと感じます。
3.2020年キッズBEE「4つの袋」|最小は42個
2020年キッズBEEトライアルとして解説されている問題に、次のような条件があります。
4つの袋に玉が入っており、どの3つの袋を選んでも合計31個以上になります。
このとき、4袋全部の玉は最も少なくて何個か、という問題です。
解説資料では答えを42個としています。
この問題は、少し違う角度から考えると非常にすっきりします。
4袋の合計をT個とします。
ある一つの袋にx個入っていれば、残り3袋の合計は、
T-x
です。
どの3袋でも31個以上なので、
T-x≧31
でなければなりません。
もし合計が41個で済むと仮定すると、
41-x≧31
ですから、
x≦10
となります。
これは4袋すべてについて成立します。
ところが、どの袋も10個以下なら4袋合計は最大でも、
10×4=40
です。
「合計41個だった」という仮定と矛盾します。
したがって、
合計は少なくとも42個必要
です。
実際に、
10個、10個、11個、11個
とすれば、最も少ない3袋を選んでも、
10+10+11=31
となり条件を満たします。
よって、
答えは42個です。
この問題では、袋の中身を一つずつ探すより、「もし全体が41ならどうなるか」と一段上から見ると道が開きます。
これは数学でよく使われる背理法の芽とも言える考え方です。
「答えはこれ以上小さくできない」と示すとき、実際に最小値を探し回るのではなく、その一つ下が不可能だと証明する。
この発想を知っているだけで、最小値問題の見え方が変わります。
4.中央の正方形|答えは16cm²
次は、前述の25題紹介記事に収録されている図形問題です。
1辺5cmの大きな正方形の中に、斜辺4cmの合同な直角三角形を4個配置し、中央に残った正方形の面積を求めます。
この問題は、中央の正方形の一辺を直接求めようとすると複雑に見えます。
ところが、外側の正方形から4個の三角形を引けばよいと考えると、一気に整理できます。
直角三角形の直角をはさむ2辺をa、bとします。
配置から、
a+b=5
です。
また斜辺が4cmですから、三平方の定理より、
a²+b²=16
です。
ここで、
(a+b)²=a²+2ab+b²
を使います。
25=16+2ab
ですから、
2ab=9
となります。
直角三角形1個の面積は、
ab÷2=9÷4
です。
4個分なら、
9cm²
です。
外側の正方形は、
5×5=25cm²
なので、
25-9=16
となります。
答えは16cm²です。
面白いのは、最後まで中央の正方形の一辺を求めなくても答えが出るところです。
「欲しい部分を直接求める」から「全体から不要な部分を引く」へ翻訳する。
図形問題では、この切り替えが非常に強い武器になります。
5.ABCDE×7=FFFFFF|条件によって答えが変わる
整数問題として特に興味深いのが、
ABCDE×7=FFFFFF
という覆面算です。
参照した25題記事では、
「A、B、C、D、Eはすべて異なる数字で、7ではない」
という条件になっています。FがA~Eと異なるという条件は書かれていません。
ここが重要です。
FFFFFFは、
F×111111
と表せます。
したがって、
7×ABCDE=F×111111
です。
111111÷7=15873
なので、
ABCDE=15873×F
となります。
あとはFを1桁の数字として調べればよく、一桁ずつA、B、C、D、Eを推測する必要はありません。
F=4なら、
15873×4=63492
で、
63492×7=444444
です。
6、3、4、9、2は互いに異なり、7も含まれていません。
F=6なら、
15873×6=95238
で、
95238×7=666666
です。
9、5、2、3、8も互いに異なり、7を含みません。
したがって、参照記事に書かれた条件をそのまま採用すると、
ABCDE=63492、95238
の2通りです。
ここには、もう一つ面白い注意点があります。
よく似た覆面算には、A~Fの6文字すべてが異なるという条件を付けた別バージョンがあります。実際、2012年早稲田中学校の問題を紹介する資料ではA~Fがすべて異なる条件になっています。
その条件なら63492は使えません。
F=4なのにABCDEの中にも4があるからです。
したがってA~Fすべて異なる版では、
95238だけが残ります。
これは問題を解く以前に、条件を正確に読むことがどれほど大切かを教えてくれる例です。
数学では、似た問題でも条件が一語変われば答えが変わります。
私は行政の仕事で文書を確認していた頃にも、「書いてありそうだから」ではなく「実際に何と書いてあるか」を確かめることの重みを感じてきました。
数学の問題文も同じです。
条件は飾りではなく、答えの一部です。
国際数学オリンピックの面白い難問3題|IMO公式問題の解法の核心
ここからは本格的な国際数学オリンピック(IMO)です。
IMO公式サイトでは、6問を2日間、1日4時間30分ずつで解き、各問題0~7点で採点すると説明しています。
以下の3題はすべてIMO公式問題PDFで問題文を確認しました。
完全な公式解答を長々と再掲するのではなく、どこで発想が切り替わるのかという「解法の核心」に絞ります。
6.1990年IMO第3問|答えはn=3だけ
1990年の第31回IMOは中国・北京で行われ、54か国から308人が参加し、42点満点者は4人でした。
第3問は非常に短い整数問題です。
2以上の整数nについて、
(2^n+1)÷n²
が整数になるnをすべて求めます。
これはIMO公式問題PDFで確認できます。
答えはn=3です。
実際、
(2³+1)÷3²=9÷9=1
なのでn=3は条件を満たします。
しかしIMOで重要なのは、
「3を見つけた」
ことではありません。
3以外が存在しないことを証明する必要があります。
解法の核心を少し専門的に追ってみましょう。
まずnが偶数なら、2^n+1は奇数ですが、n²は4の倍数です。
したがって偶数nは不可能で、nは奇数です。
次にnの最小の素因数をpとします。
n²が2^n+1を割るなら、
2^n≡-1 (mod p)
です。
したがって2をpで割った余りを繰り返し掛けたときに1へ戻る周期、いわゆる「位数」は偶数です。
その位数を2dとするとdはnの約数になります。
一方、位数はp-1以下なので、
2d≦p-1
つまり、
d<p
です。
ところがpはnの最小の素因数です。
dがnの約数でpより小さい以上、
d=1
しかありません。
よって2の位数は2です。
これは、
2≡-1 (mod p)
を意味し、
p=3
となります。
したがってnは3の倍数です。
さらに「3がnに何回含まれるか」を調べます。
奇数nについては、
2^n+1に含まれる3の個数は、LTEと呼ばれる整数論の補題を使うと、
v₃(2^n+1)=1+v₃(n)
と表せます。
n²が2^n+1を割るには、
2v₃(n)≦1+v₃(n)
でなければならないため、
v₃(n)=1
です。
つまりnは3では割れますが、9では割れません。
さらにn÷3に別の素数qが含まれると仮定すると、同じ「位数」の議論により矛盾が生じます。
結果として残るのは、
n=3だけ
です。
少々専門的ですが、この問題の美しさは、短い割り算の条件が「素因数」「周期」「割り切れ方」という整数論の世界へ一気につながる点にあります。
見た目の短さと証明の深さがまったく一致しません。
それがIMOらしいところです。
7.1996年IMO第5問|六角形を三角形の半径へ翻訳する
1996年の第37回IMOはインド・ムンバイで開催され、75か国424人が参加しました。
42点満点だったのはルーマニアのCiprian Manolescuただ一人です。
第5問では凸六角形ABCDEFに、
AB∥DE
BC∥EF
CD∥FA
という三組の平行条件を置きます。
三角形FAB、BCD、DEFの外接円半径をそれぞれRA、RC、RE、六角形の周長をPとすると、
RA+RC+RE≧P÷2
を証明せよ、という問題です。IMO公式問題PDFでもこの条件と結論を確認できます。
この問題では、最初に六角形全体を眺め続けても進みにくいでしょう。
最初の一手は、
六角形を、外接円半径が与えられた3つの三角形へ分けて読む
ことです。
三角形では拡張正弦定理により、辺aと外接円半径Rの間に、
a=2R sin A
という関係があります。
例えば三角形FABなら、FAとABをそれぞれRAと角度の正弦で表せます。
BCD、DEFについても同じです。
すると六角形の6本の辺を、
「辺の長さ」
ではなく、
「外接円半径×角度の情報」
へ置き換えられます。
ここで三組の平行条件が効いてきます。
ABとDE、BCとEF、CDとFAが平行なので、三つの三角形に現れる角は無関係ではなく、互いに対応します。
証明ではこの角度関係を整理し、半径と周長を比較できる形へ変形していきます。
代表的な整理では、最後は正の数xについて成り立つ基本的な不等式、
x+1/x≧2
のような形へ落としていくことができます。
ここで印象的なのは、最初に見えていたのが「平行線を持つ複雑な六角形」だったことです。
ところが証明の終盤で使う道具は、拡張正弦定理や基本的な不等式です。
難問とは、難しい公式を大量に知っている人だけが解ける問題とは限りません。
複雑な対象を、知っている単純な構造へ変換できるか。
1996年第5問は、そのことを非常によく示す一題だと私は感じます。
8.2009年IMO第6問「バッタ問題」|安全な順番が必ず存在する
2009年の第50回IMOはドイツ・ブレーメンで行われ、104か国から565人が参加し、42点満点者は2人でした。
第6問は「grasshopper problem」、日本語ではしばしば「バッタ問題」と呼ばれる組合せ論の問題です。
相異なる正の整数、
a1、a2、…、an
があり、その合計を、
s=a1+a2+…+an
とします。
さらにsを含まないn-1個の正の整数の集合Mを用意します。
0から出発するバッタが、a1~anの長さを一度ずつ、すべて右向きにジャンプするとき、
Mのどの点にも着地しない順番が必ず存在することを証明せよ
という問題です。公式問題PDFにも同じ条件が掲載されています。
この問題で難しいのは、「うまくいく例を一つ探す」のではないことです。
ジャンプの長さがどのような相異なる正整数でも、禁止点Mがどのように置かれても、
必ず安全な並べ方がある
ことを証明しなければなりません。
解法の一つの核心は、nを小さくしながら考える帰納法です。
ジャンプの長さを、
a1<a2<…<an
禁止点を、
x1<x2<…<x(n-1)
のように並べます。
そして、
- 最大のジャンプ
- 最大の禁止点
をいったん外し、残ったn-1個について安全な順序を作れると考えます。
もしその順序が最大の禁止点にも着地しないなら、外しておいたジャンプを最後に加えればよいでしょう。
問題は途中で最大の禁止点へ着地してしまう場合です。
そこで、そこへ到達させていたジャンプを、より大きなジャンプに置き換えて禁止点を飛び越え、外したジャンプの位置を組み替えるという発想が現れます。
完全な証明では、残りのジャンプの合計自体が禁止点になるような端点ケースまで丁寧に場合分けする必要があります。
2009年当時、この問題は数学者Terence Taoのブログでも「mini-polymath project」として取り上げられ、多数の参加者が帰納法や構成法を共同で検討しました。議論の中でも、「最大のジャンプと最大の禁止点を外し、帰納法で小さい問題へ落とす」という方

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