2025年のノーベル生理学・医学賞は、日本の免疫学者である坂口志文氏に授与されました。長年にわたり、ノーベル賞の有力候補として注目されてきた坂口氏の、免疫学における革新的な発見は、現代医療、特にがん免疫療法や自己免疫疾患の治療に計り知れない影響を与えています。
【ノーベル生理学・医学賞】大阪大学特任教授の坂口志文さんら3人 免疫抑制細胞
カロリンスカ研究所は、2025年のノーベル生理学・医学賞を、マリー・E・ブランコウ氏、フレッド ラムズデル氏、坂口志文氏に授与すると発表しました。#NobelPrize #ノーベル賞 pic.twitter.com/YvGrnKpRs5
— ニコニコニュース (@nico_nico_news) October 6, 2025
受賞内容:「制御性T細胞(Treg)」の発見とその機能解明
坂口氏のノーベル賞受賞の対象となったのは、「制御性T細胞(Regulatory T cells, Treg)」の発見と、その免疫における役割の解明です。
- 発見の意義:
従来の免疫学では、免疫細胞は異物(非自己)を攻撃する「アクセル」の役割に焦点が当てられていました。坂口氏は、免疫反応を過剰にしないようブレーキをかける「免疫抑制細胞」の存在を証明し、これを制御性T細胞と名付けました。 - 医学への貢献:
この発見により、免疫システムのバランスを理解するための基礎が確立されました。制御性T細胞の機能低下は自己免疫疾患(リウマチ、1型糖尿病など)を引き起こし、機能亢進はがん細胞への免疫攻撃を妨げることが判明。このメカニズムの解明は、がんの免疫チェックポイント阻害剤の開発や、自己免疫疾患の新たな治療戦略(制御性T細胞を用いた細胞療法など)に道を開きました。
経歴
生年月日・出身 | 1951年1月19日、滋賀県長浜市出身 |
学歴 | 京都大学医学部卒業。京都大学大学院医学研究科中途退学。 |
主な職歴 |
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その他の受賞 | ロベルト・コッホ賞(ノーベル賞の登竜門とされる)、ガードナー国際賞、文化勲章など多数。 |
業績と研究
坂口氏の研究は「自己と非自己の境界」という哲学的な命題を医学からアプローチしたものです。
- 制御性T細胞の研究:
免疫システムが誤って自身の細胞や組織(自己)を攻撃してしまう「自己免疫疾患」の謎を解明する中で、過剰な自己反応を抑えるリンパ球の存在を突き止めました。この細胞(制御性T細胞)は、免疫寛容(Tolerance)の維持に不可欠な役割を果たしています。 - がん治療への応用:
がん細胞は、この制御性T細胞を巧みに利用して免疫の攻撃から逃れていることが判明しました。制御性T細胞の働きを弱めることで、免疫チェックポイント阻害剤などの既存の免疫療法の効果を飛躍的に高める可能性が示され、多くの創薬研究が進められています。 - ベンチャー企業の設立:
自身の研究成果を社会に還元するため、制御性T細胞を標的とした医薬品開発を行うベンチャー企業「レグセル」を創設しました。
家族関係
坂口氏は、研究生活において家族の支えがありました。
- 妻・教子氏:
坂口氏が米国に留学した際に結婚し、共に渡米。妻の教子氏も研究者として、長きにわたり坂口氏の研究をサポートしました。後に自身も一流の科学誌に論文を発表するほどの研究者となっています。 - 家系:
母方の家系が江戸時代から続く村医者であったため、医学に親近感を持っていたことが、医師・研究者を目指すきっかけの一つになったと語っています。
坂口氏の発見は、がんや自己免疫疾患に苦しむ世界中の人々に希望をもたらし、免疫学の教科書を書き換えるほどのインパクトを与えました。この度のノーベル賞受賞は、その偉大な功績が世界的に認められた証と言えるでしょう。
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