海外赴任したら、弓道の練習はどうしますか。20年以上前ですがジュネーヴに赴任した時、私はあきらめました。練習用の弓だけ素引き用に持っていきました。
そんな不安を抱える方も多いわけではありませんが、海外ではどんな場所でどんな風に練習しているかお伝えします。ジュネーヴの例ですが参考になるかと思います。
今では全日本弓道連盟のホームページで、海外のサイトがあって事前にコンタクトもとれますが、私の場合は赴任1年後に偶然口コミで見つけました。
だんだん日本と差はなくなってきましたが、それでも新しい発見があるはずです。
海外で弓道を練習できる場所はあるの
ジュネーヴの場合は、クラブ形式になっており、その人たちで資金を出し合って、ほぼ日曜大工で弓道場を建てたものです。
場所はコミュニティが管理しているサッカー、乗馬があるスポーツ施設の一角です。
日本で個人が家を建てるというとびっくりしますが、彼らは自分の家も個人で建てる人がいるのでそれほどの驚きではないのです。それでも見た目立派な練習場になっています。しかも思い入れがあるのでいろいろ凝って作ることになります。
後日ですが、ジュネーヴ駐在のある事務所が閉鎖になった時に、不要になった灯篭などを持ち込んで雰囲気を出してあります。
安土は土ではなく、小麦を刈った後を四角に束ねたものが大量にできるので、それを積み上げて壁を作っています。その壁に的をひっかけています。
一言で言えば麦藁で作った巻藁みたいなものですが、麦藁の締め方が緩いので、的を外すと簡単に突き抜けてしまいます。
その突き抜けた矢を麦藁の後方から引き抜くという作業が必要となります。
このように恒久の施設がない弓道クラブは公営の体育館のフロアを借りて、そこに仮設の道場の施設を組み立てて練習しているのが大部分です。
それでも、手慣れたもので、30分もあれば組上がってしまいます。
海外での弓道の練習はどんな様子か
基本、日本と変わりません。指導者が少ないので皆で練習するのは週1回ぐらいです。その他の日は勝手に鍵を開けて個人で練習していました。
車で昼休みとか仕事が終わった後にさっと出かけて練習することもできました。
夏はそれでも日が長いし快適なのですが、冬は日が短く寒いのでとても夜は練習できません。何しろ外と同じ温度ですから。
体育館を借りて練習しているクラブは、週1か週2で決まった日の決まった時間に集合して、皆で練習していました。こちらはインドアですので夏冬関係ないようです。
最初の一手は入場から始まり、審査方式で実施し、そのあとは自由練習という形式でした。ここらあたりは日本と変わらない感じではあります。
海外には弓道の指導者はいるの
私が居たころはスイス全体で弓道をしている人が100人ぐらいです。その中で、錬士が一人、五段が三人しかいませんでした。
ジュネーヴでは五段の人が世話人かつ先生でした。今では、称号士も増えて、どこに行っても指導者がいないということにはならないかと思います。
ただ、国によっては指導者がいなくて困っているところもあるようです。
海外での弓道の講習会と審査はどのように実施しているか
国単位の講習会、全日本弓道連盟の講習会があります。
国単位の講習会では、例えば年に一回スイスでの講習会がベルンでありました。ベルンといってもジュネーヴから車で200㎞あります。
そこの体育館を借りて1泊2日の講習会を行います。講習内容はほぼ日本の講習会と似たようなものです。日本よりもやや和気あいあいとした感じで楽しくやっています。
場合によっては、他の国から先生を呼ぶこともあり、私が参加したときは、イギリスからオブライエン先生が講師としていらっしゃいました。そのころ海外では唯一の教士七段です。
先生についてはテレビ取り上げられたので知っている方もいるかと思います。夜は当然のように懇親会があります。ここら辺の感覚は日本と変わりません。
最も大きなイベントは全欧州を対象とした、毎夏開かれる全日本弓道連盟の講習会です。これには、全日本弓道連盟から範士の先生3名が派遣されます。
日本でも範士の先生が3人もそろった講習会に出席することは、高段者を対象とした講習を除いてほとんどないので、1年に1度とはいえ、ある意味、日本よりも充実しています。
全体を3つのレベル別のクラスに分けて、それぞれ1週間の講習会と最終日に審査が行われます。受講者は1週間だけですが、先生と世話人は3週間続けての長丁場になります。
先生もだいたい高齢ですので、3週間ぶっ続けは大変だっただろうと思います。
私が参加した時はハンブルグから列車で1、2時間先のシュベリーンというところでした。長い弓をプチプチシートに包んで、トランクを持って、はるばる飛行機+列車で参加しました。
講習風景も面白いものです。
特に数十人を集めての解説では、先生が日本語で説明すると、それぞれ次は英語、その次はドイツ語、その次はフランス語とこだまのように同じ内容が通訳されていきます。
通訳を専門とされる方も中にはいらっしゃいますが、必ずしもすべて揃っているわけではないので、個別講習では日本と違いいろいろな言葉が飛び交いとっても賑やかです。
審査は日本と同じようなものです。審査会場が体育館というだけで、日本と同じように緊張して審査を受けることになります。
今では、日本でも仮設の道場で審査が行われますが、それと似たようなものです。
学科試験もあります。言葉はそれぞれの言葉で書いてよいようで、学科の採点はその国の世話役がお手伝いしていました。私は当然日本語で書きましたが。
海外では弓具はどのように調達していたか
弓道の道具の調達はお察しのところとっても難しかったです。日本にしか弓具屋さんはありません。当時唯一海外対応していたのは、東京のA弓具店だけでした。
私の場合、海外ではやらないものだと思っていましたので、筋トレ用の弓以外何も持っていなかったので、Faxと電話で注文しました。幸い送金システムは電話対応できたので、料金の支払いはスムーズでした。
クラブの皆さんも、調達には苦労していたようです。幸い、弓道を始める人は、日本と何らかの接点がある人が多いのです。
例えば、奥さんが日本人とか、日本の会社の現地法人とか、日本の企業と取引があるとか。そういう人は、日本に立ち寄ったときに、必要な道具を揃えてくるようです。
また、日本人の我々とは異なり、平気で2週間の休みが年2回ありますのが普通ですので、その間、セミナーで来ていた先生のところで練習に日本に来られる方もいらっしゃいます。
その際にはごっそりお買い物もしていきます。
また、日本から来る人に買い付けをお願いしている人もいました。日本でも弓具店に行ったことがない人が多いでしょうから、買い付けに駆り出される人も大変だったと思います。
今では、海外対応している弓具店もかなり増えて、対応が整理されてきているので、当時よりはスムーズに調達できるでしょう。
海外での弓具の管理、修理はどのようにしていたか
弓具屋さんがないので、基本自分ですべて行うしかありません。弓道をやられる方は意外と器用な人が多いので自分で工夫して修理をしていました。
それでも困るのが竹弓です。日本に親しみを持つ人達ですので、直ぐに竹弓を買いたくなってしまうのです。
日本より乾燥している気候。冬の寒さ。体が大きいから引き尺が長い、力が強いなどが相まって、外竹が割れてしまう例が非常に多いです。それでも何とか修理しながら使っていました。
本当は、この気候を考えれば、カーボン弓とかグラス弓の方が良いのでしょうが、憧れと好みには勝てないようです。
海外のクラブに入った日本人に求められること
数少ない日本人が弓道のクラブに入ると、様々なことを聞かれます。
弓道の教本も英語バージョンはあるもののもともとの内容が論理的に書かれたものでないため、どうしても読んでいてわからない部分がたくさんあるでしょう。
例えば、「詰め合い」とか「伸び合い」とか「残身」と「残心」とか、離れにしても自然の離れなどの概念を説明しようとすればとても大変なことになります。
そうはいっても、純粋日本人ですから、「知らない」「わからない」ではすまないのです。何とか自分なりに考えたり調べて、解説する必要が出てきます。
しかも悪いことに、彼らの疑問は、弓道だけにとどまりません。
大体日本文化に興味を持ってる人達ですから、話は広範囲に及びます。また、話好きの人が多いので、話始めると長い会話になってしまいます。
こちらが、慣れない英語を駆使することになりますから、くたくたになります。日本の文化を解説したものをひもといて、「わび」「さび」から始まって、一通りの内容は目を通しておくことが求められます。
海外赴任したら弓道の練習はどうするのまとめ
私の体験をもとに、海外での弓道の練習の様子を述べてきました。今では、事前にホームページで調べて連絡を取っておくということもできます。総てが整っていればそれなりに準備をして臨むこともできるでしょう。でも実際に行ってみなければ、本当の様子はわかりません。
すべての人が体験できることではありませんが、ご参考になれば幸いです。
私の場合のように、妻から「あなた。大変。とってもいい話があったよ。」という一言から始まるような驚きはないでしょう。
それだけに、見つけてからの2年弱はとても貴重で鮮明な体験となりました。
たまたま、駐在最後の年に第3回の国際弓道大会が都城で開かれました。スイスからも20名程度が参加したと思います。
はるばるジュネーヴからフランクフルト渡り、そこから成田に到着、バスを乗り継いて、羽田から宮崎に飛んで、バスで都城に行くという強行軍でした。
更にここに輪をかけて、出発の日にジュネーヴ空港が事故で封鎖となり、フランクフルトに一泊するというハプニングも加わっております。
着いたのちは、一週間の日程の中で、欧州セミナーのような講習会、国際弓道大会、審査と、大変盛沢山な日程で、都城市も市をあげてこの大会に取り組んでおり、盛大な歓迎を受けました。
国際弓道大会の開会式も立派にアレンジされており、どういうわけか、スイスチームの一員として旗までもって参加することとなってしまいました。
こんな体験も海外でたまたま弓道クラブに出会えたからで、一生に残る思い出になります。
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