この記事では弓道の馬手(右手)の離れについて、初段、二段の方を対象に解説します。もちろんその前の方でも読んでいただければ参考になると思います。
初心者の方を教える機会を得て、多くの方が、馬手(右手)の離し方を知らないままに、弓を持って的前に立つことになります。そのおかげで、極端な大離れになったり、顔を打つことになったり、バンザイ離れになったりと色々な弊害が出てくるのです。
馬手の離れの役割と重要性
馬手の離れは会から矢を離すときの重要な動作になります。
馬手の離れが持つ重要な役割
矢は弓手の拳の上と馬手で支えられていますから、これが矢筋の方向に飛んでいけば矢は正確に的に中ることになります。弓手の方は自分の眼で見えていますから、極端に大開をしなければ位置は変わりませんし、自分でコントロールすることができます。
弓手と違い馬手は自分では見えていませんし、どのような軌道で動いているのかもわかりません。この離し方を自分の感覚で作り上げていかなければならないのです。このため馬手の軌道によって矢の軌道も大きく変わることになるので、馬手の離し方が重要になるのです。
初心者が陥りがちな失敗とミス
加えて指導上の問題があるのです。多くの教室では初期の段階でゴム弓の練習になります。ゴム弓は素手で親指にかけて人差し指、中指で押さえているでしょう。そして、会を想定した状態から、「1、2,3、離せ。」という感じで思いっきり離させているのが普通です。
この動作では、人差し指、中指を開いて離すのが普通なのです。しかも、今は小離れを嫌いますから、思いっきり離す状態なのです。ある意味この段階では仕方がないのですが、これにより、次のような欠陥ができてしまうのです。
①会で握っていた指を開いて離す癖がつく。
②大きく離せと言うことから、会から新しい力で思いっきり引きちぎる離れになる。
本来は、ゴム弓を卒業して弓を使うようになったら、もしくは、堅帽子になったら修正しておかなければならないのですが、残念なことにここの部分を修正することは一切ありません。
勘の良い人なら、無意識のうちに修正されているのですが、必ずしも徹底しているわけではありません。私も一切この段階で修正することなど教えていただいていないので、引きちぎりか指を開いて離していたと思います。
このような状態で的前に立つとどのようになるのでしょうか。
①離し方がわからないので、いつまでたっても離せない。
②離し方がわからないので、弦を引きちぎるように離す。
③離れのイメージがないので、離れた後の弓手の位置が定まらない。
④離すときに指を開くので、離れでパーの状態になる。
⑤親指を開くと、弦が内側を通るので顔を打ったりする。
ざっとこんなような欠点が出てきます。このような傾向は初、二段の間に直しておいたほうが良いでしょう。
馬手の離れの誤りの修正方法
馬手の離れについては、2種類の改善点があります。そのどちらも、イメージと動作の両方が必要です。一つ目は弦に取り懸けた馬手の親指を押さえる中指をどのように離すかと言うことです。二つ目は離れた馬手がどのように収めるかという問題です。
馬手の親指を押さえる中指、人差し指の挙動
私もこれについては四段ぐらいまで誰も教えてくれませんでした。不幸なことに弽には溝がついています。ある程度内側に捻って手の甲が上を向くように指導されているので、溝にはまった弦は引くだけでは離れないのです。
そのためには、会の状態で、引き分けとは反対方向、外側に軽く回転させる必要があるのです。本当は、弦に引かれた親指の先端が中指を押して外側に回転する力を発生させるのですが、親指を押さえた中指の力が強いとこの力を認識することができないのです。
何人かの指導者はあまり品が良い表現ではありませんが、指パッチンという表現をしています。
指パッチンというのは左の図のような動作です。左から右に進んで音を出す動作ですが、弓道で取懸けるときには親指の爪の上に中指と人差し指が乗っているのでご注意ください。音はしませんがその状態から同じような動きをすることになります。そうすると馬手が外側に回ることもイメージできると思います。
馬手の離れの改善を目指す練習計画
このような考え方が理解できたら、実際に身に着ける行動に移すことです。
1.まずは、上の動きを自分の手で、見ながら何回もやってみることです。決して大変な練習ではありません。何かの隙間時間でもできる練習です。
2.これで手の動きがスムーズになってきたら、弓を持ちだしましょう。早まらないでください、矢を番えるわけではありません。体の正面に弓を持ってきて、弽を付けて取懸けます。そして、弦を1~2㎝程引いてこの動作で離れるか何度も試してみることです。
この離れ方を実践すると、馬手の手のひらは正面をむいて、指は開かない状態で収まっていることになります。これが正解の形なのです。よく、馬手の手のひらが上に向いていたり、下に向いていた利する人がいますが、このような形にはならないのです。
馬手の離れのイメージを定着させる
最終段階は馬手の離れの位置を決めていくことです。いくら大離れと言っても肘を中心とした上腕と下腕の角度がまっすぐになるのはやりすぎです。たかだか10数キロの弓でこんな形になるはずがないのです。一説にはこの角度は150度ぐらいが適切と言われています。
会からこの離れの馬手の位置に開くイメージを自分に植え付けることです。そして、会では的付けだけ確認したら、この位置に一気に持っていくことです。
弓道の馬手の離れのコツと練習方法のまとめ
馬手の離れについて解説しましたが、いかがでしょうか。このような馬手の開き方、離れ方については実はほとんどの人は教えてくれません。上手な人はなおさらなのです。というのは、上手な人というのは勘の良い人が多いため、2,3割の人は知らないうちに体得してしまうのです。
私などは何度も開けばいいと言われましたが、何年もできませんでした。そんなこともあり、このような解説をしてみることとしたのです。
最期に、一番大切なことです。
最終的には自分の体がこの動きを意識しなくてもできるまで練習することが必要なのです。本来は21日間の法則と言って、21日間続けて初めて無意識に動くようにできるのです。
しかし、大抵の人は21日間のつまらない練習に耐えられなくて、さっさと、次の動作に移ってしまいます。そうするとまたどこかの段階で戻ってしまいまたやり直さなければならないのです。
どうか、こんなことも心にとめて練習してみてください。
コメント