『ツルネ』の斜面打ち起こしは、辻峰高校の独特な射のテンポを生み、正面打ち起こしとの違いを印象深く見せる重要な要素です。
アニメ『ツルネ -つながりの一射-』第2期第3話「朝嵐が吹く」では、主人公・鳴宮湊たち風舞高校と、中学校時代の先輩である二階堂永亮が率いる辻峰高校が対戦します。辻峰の斜面打ち起こしによる独特なテンポに、風舞の五人は次第に翻弄されていきます。公式サイトでも、第3話について「辻峰の独特なテンポに翻弄される風舞」と説明されています。『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト
では、ツルネに登場する「斜面打ち起こし」とは、そもそも何なのでしょうか。風舞高校が行う正面打ち起こしとは何が違い、なぜ同じ立で引くとあれほどリズムの違いが生まれるのでしょう。
今回は『ツルネ』第2期第3話を手がかりに、弓道における正面打ち起こしと斜面打ち起こし、それぞれにつながる流派や歴史まで、初心者にも分かるように整理してみます。
ツルネの斜面打ち起こしとは?辻峰高校の射の特徴
結論から言えば、斜面打ち起こしとは、身体の正面から両腕を上げるのではなく、斜面の弓構えから左斜め上へ弓を打ち起こしていく射法です。
全日本弓道連盟の弓道用語辞典でも、斜面打起しは「斜面の弓構えから左斜め上に打起こす方法」と整理されています。正面打起しは、正面の弓構えから両腕を上げ、その後に大三をとる方法です。全日本弓道連盟
この違いが、『ツルネ』第2期第3話で風舞高校を惑わせる大きな要素になっています。
風舞高校の湊たちは、普段から正面打ち起こしを中心とした射をしています。一方、二階堂永亮率いる辻峰高校は斜面打ち起こしです。
同じ弓を引いているのですから、「腕を上げる方向が少し違うだけではないか」と初めて見る方は思うかもしれません。
しかし、実際には弓構えから打起し、引分けへ入るまでの動き方が違うため、射全体から受ける時間感覚もかなり変わります。
ここが第3話を見るうえで大切なところです。
公式サイトでは辻峰を「昨年までの試合データがない無名の高校」とし、今年の大会で番狂わせを起こしている存在として描いています。そして試合が始まると、風舞は辻峰の独特なテンポに翻弄されていきます。『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト
さらに第11話の公式紹介でも、辻峰は明確に「斜面打ち起こしのダークホース」と位置づけられています。『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト
したがって、辻峰の斜面打ち起こしは単なる作画上の変化ではありません。二階堂たちの個性やチームのリズムを表現する、作品上でも重要な要素なのです。
私自身、弓道を長く見てきて興味深いと感じるのは、『ツルネ』がこの違いを「珍しい引き方」として見せるだけでなく、他者の射に引きずられて自分の射を失う怖さまで描いているところです。
弓道は一人で的に向かう競技ですが、団体戦では隣に立つ射手の動きや弦音が嫌でも目や耳に入ってきます。
そこに正面と斜面という明確なリズムの違いが加われば、普段と同じように引いているつもりでも、知らず知らずのうちに呼吸を乱されることがあります。
ツルネの斜面打ち起こしと正面打ち起こしは何が違う?
最も分かりやすい違いは、弓構えから弓をどの方向へ打ち起こし、その後どのように引分けへつなげるかです。
全日本弓道連盟も、現在の射法について正面と斜面の双方があることを説明しています。連盟の初心者向け解説では正面の射法を例として示していますが、弓構えから打起しには正面と斜面があることが明記されています。全日本弓道連盟
大まかに整理すると、次のようになります。
比較する点 正面打ち起こし 斜面打ち起こし
打ち起こす方向 身体の正面から上方へ 斜面の弓構えから左斜め上へ
大三への流れ 打起し後に大三へ移る 弓構えから引分けへの流れが正面とは異なる
『ツルネ』の代表 風舞高校 辻峰高校
見た印象 左右の腕がそろって上がる 弓が斜め方向へ動き始める
団体で感じるリズム 現代では見慣れている人が多い 正面に慣れた人には速く感じることがある
ここで大切なのは、どちらが上でどちらが下という関係ではないことです。
長い弓道史の中で形成された射法の違いであり、それぞれに伝承と理法があります。
初心者の頃は、自分が習っている方法が「弓道そのもの」に見えやすいものです。しかし少し歴史を調べると、現在私たちがよく目にする射法も、長い歴史の中で整理されてきた一つの形であることが分かります。
弓道には「射法八節」があります。
全日本弓道連盟は、射法八節を弓を射るための八つの過程とし、それぞれをばらばらの動作としてではなく、一つにつながった流れとして考えることを重視しています。全日本弓道連盟
八節とは、
- 足踏み
- 胴造り
- 弓構え
- 打起し
- 引分け
- 会
- 離れ
- 残心(残身)
という一連の流れです。
正面と斜面の違いが特に目に見えて表れるのは、弓構えから打起し、引分けへと移っていく部分です。
つまり『ツルネ』で辻峰の射を見て「あれ、風舞と腕の動かし方が違う」と感じたなら、それこそが作品が丁寧に描いている射法の違いなのです。
ツルネ第2期第3話から分かる弓道の二つの系統
弓道の歴史を大きく眺めると、しばしば礼射系と武射系という二つの流れから説明されます。
礼射の流れを考えるうえで代表的なのが小笠原流です。
小笠原流には中世以来の長い歴史があり、騎射や儀礼における弓の作法などを伝えてきました。馬上で行う射や、儀礼として行われる射を含め、弓が単なる武器ではなく礼法の一部でもあったことを現在に伝えています。
一方、武射系を語る際に重要になるのが日置流です。
日置流は室町時代以降の武射の展開に大きな影響を与え、その後さまざまな派へ分かれていきました。
戦国時代から江戸時代にかけて、弓は戦いの道具であると同時に、高度な技術を磨く武芸でもありました。
そのため、ひと口に「日本の弓道」と言っても、千年を超える歴史の中で一つの射法だけが続いてきたわけではありません。
ここが弓道の面白いところです。
礼射系と武射系という大きな流れがあり、さらに打ち起こしにも正面と斜面があります。そのうえ各流派で細かな作法や射技が異なりますので、現代の射を理解するには単純な二分法だけでは足りません。
『ツルネ』の辻峰高校を見て「どうしてこの高校だけ引き方が違うのだろう」と疑問に思った方は、まさに弓道史の入口に立ったと言えるでしょう。
アニメの一場面に見える違いの背後に、何百年という射法の歴史が重なっているのです。
現代弓道で見かける主な正面・斜面の引き方
礼射、武射、正面、斜面と分類していくと単純には四つの組み合わせが考えられますが、実際には長い年月の中でさまざまな流派が形成されました。
現在、一般の道場や大学弓道、流派の稽古などを含めて目にする機会のある代表的な形を、大まかに四つに分けて見ていきます。
現代の一般的な正面打ち起こし
まず、現在の学校弓道や一般の道場で最も目にする機会が多いのが、正面打ち起こしです。
『ツルネ』でいえば、風舞高校の皆さんが行っている方法です。
以前の記事では便宜上「全日本弓道連盟流」と表現していましたが、もちろん正式な流派名としてそのような流派が存在する、という意味ではありません。
より正確には、全日本弓道連盟の射法・射技の考え方をもとに、多くの学校や道場で学ばれている現代的な正面打ち起こしと考えると分かりやすいでしょう。
私が道場や大会を見てきた印象でも、正面打ち起こしは非常に多く見かけます。
ただし、以前「8割ぐらいではないか」と書いた数字は、厳密な全国統計に基づく占有率ではなく、あくまで私自身の経験上の感覚として述べたものです。数字だけが独り歩きしないよう、この点は明確にしておきたいと思います。
現在広く行われている正面の射を見ると、礼法を大切にしながら射技を磨くという、近代以降の弓道の歩みも感じられます。
弓道を初めて習った方にとっては、この形が最初の「弓道の姿」になる場合が多いでしょう。
しかし『ツルネ』の辻峰を見ると、それだけが弓道ではないことに気づかされます。
本多流は武射系の正面打ち起こし
本多流は、武射の系統を背景にしながら正面打ち起こしを採用した流れとして知られています。
明治時代、本多利實は、それまで学んでいた日置流竹林派の射を基盤としながら、斜面打ち起こしを正面打ち起こしへ改めました。
一般財団法人本多流生弓会も、本多利實が日置流竹林派から出て、武道と体育の調和を主眼として従来の斜面打起を正面打起にしたと説明しています。ホンダ流
ここは現代弓道を理解するうえで、とても重要なところです。
「武射系なら斜面」「正面なら礼射」と単純に分けられないのは、本多流のような存在があるからです。
本多利實は東京帝国大学、第一高等学校、東京美術学校などで弓道を指導し、その門人たちによって正面打ち起こしの射が広く伝えられていきました。ホンダ流
明治という時代は、古くからの武芸が近代社会の中で新しい役割を求められた時代でもあります。
そのなかで、射を体育や心身鍛錬としてどのように再構成するかという試みが行われました。本多流の成立は、その変化を象徴する出来事の一つだと私は考えています。
また、弓道史で名を知られる阿波研造も、本多系の流れを考える際に名前が挙げられる人物です。
現代の一般的な正面打ち起こしと本多流は、見た目だけなら初心者には違いが分かりにくい場合があります。
しかし足踏みをはじめ、射法や伝承される考え方を細かく見ていくと、それぞれの背景があります。
日置流印西派は斜面打ち起こし
『ツルネ』で検索する方が特に気になるのが、この斜面打ち起こしでしょう。
日置流印西派は、武射系の斜面打ち起こしを伝える代表的な流派の一つです。
日置流は室町時代以降に発展し、そこからいくつもの派に分かれていきました。その一つとして印西派があります。
有名な射手として浦上栄範士の名を知っている方も多いでしょう。
現在でも印西派の射は受け継がれており、日本だけでなく海外で日置流系統の弓道を稽古する人々もいます。
以前の記事では、ドイツにもこの引き方で稽古する方がかなりいると紹介しました。日本の伝統武道でありながら、海外でも流派の射が学ばれていることは興味深いところです。
では、ツルネの辻峰高校は日置流印西派なのか。
ここは少し慎重に考えたほうがよいでしょう。
作品中の辻峰高校が斜面打ち起こしであること自体は、公式サイトでも明示されています。第2期の先行上映会レポートでも、二階堂のキーワードとして「斜面打ち起こし」が挙げられています。『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト
一方で、斜面打ち起こしだから直ちに「日置流印西派」と断定できるわけではありません。
以前の記事では「辻峰高校はこの引き方でしょう」と書きましたが、より丁寧に表現するなら、日置流印西派などの斜面打ち起こしを知ると、辻峰の射の特徴を理解しやすいという位置づけが適切でしょう。
これは作品を楽しむうえでも大切な区別です。
アニメの描写を実在流派に重ねて観察することは面白いのですが、公式に明示されていない所属流派まで断定してしまうと、作品設定と現実の弓道を混同することになります。
なぜ斜面打ち起こしはツルネで「速く」見えるのか
斜面打ち起こしの射手と一緒に立を組むと、正面打ち起こしに慣れた射手には、相手の進行が早く感じられることがあります。
理由の一つは、正面打ち起こしと斜面打ち起こしでは、弓構えから打起し、引分けへ入る動きの組み立て方が違うからです。
正面打ち起こしでは、正面から両腕を打ち起こした後、大三を経て引分けへ進みます。
斜面では、その流れが同じ形にはなりません。
そのため正面の射手から見ると、
「もうそこまで引いているのか」
「もう離れたのか」
という感覚になることがあります。
私も、斜面の射を間近で見ると、正面とは時間の流れ方が違うように感じることがあります。
もちろん、斜面だから必ず射が速いわけではありません。実際の速度は射手の息合い、会の深さ、射技などによって変わります。
ここを「斜面打ち起こし=早撃ち」と理解してしまうのは適切ではありません。
むしろポイントは、動作の構造が違うため、正面に慣れた人にはテンポが違って感じられることです。
『ツルネ』第2期第3話は、この感覚を競技の駆け引きとして非常にうまく利用しています。
湊が相手を意識し、自分が当てなければならないと的へ意識を集中させていくほど、本来の風舞の射のリズムが崩れていきます。
つまり辻峰の強さは、「斜面だから強い」という単純な話ではありません。
自分たちの射のリズムを持っている辻峰と、相手のリズムを意識するあまり自分たちの射を見失う風舞という対比に意味があるのです。
ここまで見ると、第3話に斜面打ち起こしが登場した理由も、かなりよく分かってくるのではないでしょうか。
日置流尾州竹林派も武射系斜面打ち起こし
日置流尾州竹林派も、武射系の斜面打ち起こしを伝える流れとして知られています。
印西派と同じ斜面ですから、初心者が遠くから見るだけでは違いが分かりにくいかもしれません。
しかし、弓構えから打起しへ向かうまでの準備や手の内、弓手の扱いなどを詳しく見ていくと違いがあります。
以前の記事では、印西派は取懸けを行ったあと、弓手を正面打ち起こしの大三にも似た位置へ入れ込んでいく一方、竹林派ではその動きが比較的小さいことを違いとして紹介しました。
愛知県を中心に尾州竹林派の伝統を受け継いでいる方々もいます。
また、この系統を語る際に忘れにくいのが、江戸時代の通し矢です。
京都・三十三間堂の軒下を射通す通し矢は、江戸時代の弓術史を象徴する競技の一つになりました。
尾張藩の星野勘左衛門も、その歴史の中で名を残した射手です。
以前の記事では「通し矢8千本の星野勘左衛門」と紹介しました。
こうした歴史を知ってから斜面打ち起こしを見ると、それが単なる「アニメに出てきた変わった構え」ではなく、実戦弓術から競技、武道へと続いてきた長い時間の上にあることが分かります。
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ツルネ第2期第3話ではなぜ斜面打ち起こしが重要なのか
第3話で本当に重要なのは、斜面打ち起こしそのものの珍しさより、異なる射を目の前にしたとき、自分の射を保てるかという問題だと私は考えています。
団体戦では五人が一人ずつ順に射ます。
一人だけなら、自分の呼吸、自分の間合い、自分の会だけを意識しやすいでしょう。
しかし五人で一つの立をつくると、前の射手の弦音、的中、動作の速さなどが自然と入ってきます。
しかも対戦相手が、自分たちとは異なる斜面打ち起こしで、見慣れないテンポをつくっているとなれば、なおさらです。
第3話の風舞が直面するのは、技術の違いだけではありません。
「相手を見ること」と「相手に引っ張られること」の違いです。
これは弓道の稽古でも考えさせられるところがあります。
上手な人の射を見ることは大切です。しかし、射位に立ってからまで他人の射を追いかけるようになると、自分が積み上げてきた手順や呼吸が崩れることがあります。
弓道には「息合い」という言葉があります。
『ツルネ』第2期全体でも、風舞にとって息合いは重要なテーマになっています。
息をそろえるというのは、機械のように全員が同じ速度で動くことではないでしょう。
それぞれが自分の射を保ちながら、五人が一つの流れを形づくる。
私は、その微妙な関係を描くために、辻峰の斜面打ち起こしが非常に効果的に使われていると感じます。
もし風舞も辻峰もまったく同じ正面打ち起こしで、ほぼ同じテンポのチームだったなら、第3話で描かれる「乱される感覚」はここまで視覚的には伝わりにくかったはずです。
弓の上げ方が目に見えて異なるからこそ、視聴者にも「あちらは何か違う」という感覚が伝わります。
その意味で斜面打ち起こしは、弓道の正確な描写であると同時に、アニメーション表現としても非常にうまく機能していると思います。
正面と斜面の歴史から見える現代弓道の面白さ
千年以上にわたる日本の弓の歴史を考えると、現在多くの人が目にする正面打ち起こしが、初めから唯一の標準だったわけではありません。
小笠原流など礼射の伝統が続く一方、武射では日置流諸派が発展し、斜面打ち起こしが長く受け継がれてきました。
そして明治時代になると、本多利實によって日置流竹林派の流れを背景とした正面打ち起こしが広まりました。
本多流生弓会の説明を読むと、本多利實が武道と体育との調和を考え、従来の斜面打起を正面打起へ改めたことが分かります。ホンダ流
これは単なるフォームの変更ではなかったのだと思います。
社会が変われば、弓道に求められる役割も変わります。
戦場で弓を使う時代から、武道として心身を鍛え、学校や道場で幅広い人が学ぶ時代へ移るなかで、射法もまた整理されていきました。
個人的には、ここに弓道の懐の深さを感じます。
古いものを何一つ変えず保存することだけが伝統ではありません。
大切な考え方を残しながら、時代に応じて新しい形が生まれ、それがやがて次の伝統になっていく。
正面打ち起こしと斜面打ち起こしが現在も並んで存在している姿は、その歴史を目で見るようなものです。
だからこそ、『ツルネ』で斜面打ち起こしを知った方には、「辻峰の変わった引き方」というところだけで終わらず、その背景にも少し目を向けていただきたいと思います。
風舞の正面にも歴史があり、辻峰を連想させる斜面にも歴史があります。
どちらも長い弓の文化の中から生まれてきたものです。
そして、異なる射法が同じ競技会の射場に並ぶところに、現代弓道ならではの豊かさがあります。
『ツルネ』斜面打ち起こしを知って第3話を見直すと何が変わる?
斜面打ち起こしの知識を持って第3話を見直すと、辻峰高校の動きが単なる演出ではなく、物語そのものに関わっていることが分かります。
注目したいのは、的中だけではありません。
二階堂たちが弓構えからどのように打ち起こし、風舞の射手との間にどのような時間差が生まれているかを見てみてください。
すると、風舞が感じている焦りが少し想像しやすくなります。
「相手はもう次へ進んでいる」
そう感じた瞬間、人は自分も急がなければならないような気持ちになります。
しかし弓道では、本来、自分の身体と呼吸を置き去りにして急ぐべきではありません。
相手が速く見えるから自分も速くするのではなく、自分の射を崩さず、自分たちの息合いを守る必要があります。
ここはスポーツとして弓道を見る方にも興味深いところでしょう。
サッカーやバスケットボールなら、相手の速さに対応してこちらも速く動く場面があります。
ところが弓道では、相手のテンポに対して直接動きを合わせることが、かえって自分を崩す原因にもなります。
相手を意識しながら、相手の射には乗らない。
私は、第3話の斜面打ち起こしが教えてくれるものを一言で表すなら、そこではないかと思っています。
これは弓道初心者にも参考になります。
稽古を始めると、隣の人が自分より早く引いているだけで不安になることがあります。
「自分は遅すぎるのではないか」
「もう離れた。自分も急がなければ」
そう感じるものです。
しかし、他人の時間をそのまま自分の射へ持ち込む必要はありません。
もちろん射場の進行や体配に配慮することは必要ですが、自分の射法八節を丁寧につなぎ、呼吸と身体を整えることのほうが大切です。
年齢を重ねて弓を引いておりますと、この「人と比べすぎない」ということの難しさと大切さを何度も感じます。
若い人の力強い射、熟練者の静かな射、正面、斜面。それぞれを見て学びながらも、最後に射位へ立つのは自分です。
『ツルネ』は高校生の物語ですが、そこに描かれているこの感覚は、年齢を問わず弓を学ぶ人に通じるものがあると思います。
ツルネの斜面打ち起こしと正面打ち起こしのまとめ
『ツルネ』第2期第3話で辻峰高校が見せる斜面打ち起こしは、正面から弓を上げる風舞高校とは異なり、斜面の弓構えから左斜め上へ打ち起こしていく射法です。
その違いによって、弓構えから引分けへ進む流れにも異なる印象が生まれ、正面打ち起こしに慣れた射手からはテンポが違って感じられることがあります。
現代の弓道では正面打ち起こしを目にする機会が多い一方、日置流印西派や尾州竹林派など、斜面打ち起こしの伝統も受け継がれています。
また明治時代には、本多利實が日置流竹林派を背景としながら正面打ち起こしを広めました。
この歴史を知ると、正面と斜面は単なるフォームの違いではなく、日本の弓術・弓道が歩いてきた道の違いでもあることが見えてきます。
そして『ツルネ』第2期第3話の面白さは、その本物の技術的差異を、団体戦における「リズムの乱れ」という物語へ結びつけたことにあります。
辻峰の斜面が風舞を直接負かすのではありません。
相手の射を意識しすぎたことで、風舞が自分たちの射を見失っていく。
私はそこに、この回の本当の見どころがあると感じています。
弓道を知らずに見ても楽しめる場面ですが、斜面打ち起こしと正面打ち起こしの違いを知ってから見返せば、二階堂たちの動き、湊の焦り、五人の息合いの崩れ方まで、以前とは少し違って見えてくるはずです。
千年以上続く弓の文化の中では、射法も時代とともに変化してきました。
これから先、現代弓道の射法がどのように受け継がれ、どのように変わっていくのか。それを想像するのも、弓道史を学ぶ楽しみの一つではないでしょうか。
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よくある質問
『ツルネ』の辻峰高校は斜面打ち起こしですか?
はい。『ツルネ -つながりの一射-』の公式サイトでも、辻峰高校は「斜面打ち起こし」のチームとして紹介されています。『ツルネ -つながりの一射-』公式サイト
第2期第3話では、その独特な射のテンポに風舞高校が翻弄される様子が物語の重要な部分になっています。
斜面打ち起こしと正面打ち起こしの一番の違いは何ですか?
大きな違いは、弓構えから打起しへ移る方向と、その後の引分けまでの流れです。
正面打ち起こしは正面の弓構えから両腕を上方へ打ち起こして大三へ進みます。斜面打ち起こしは斜面の弓構えから左斜め上へ打ち起こします。全日本弓道連盟
辻峰高校は日置流印西派なのですか?
辻峰高校が斜面打ち起こしであることは公式に確認できますが、斜面であることだけを理由に日置流印西派と断定するのは避けたほうがよいでしょう。
日置流印西派は斜面打ち起こしを理解する代表例の一つとして参考になりますが、作品内の高校の射法と実在する流派をそのまま同一視しないことが大切です。
斜面打ち起こしは正面打ち起こしより速いのですか?
必ず速いわけではありません。
弓構えから引分けまでの動作の組み立てが異なるため、正面打ち起こしに慣れた人には斜面の進行が速く感じられる場合があります。しかし実際の射の速さは、射手の息合いや会などによって変わります。
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