弓道を始めて3年目ぐらい参段を受審する頃から弓返りについて考え始める人が出てくるでしょう。そして5、6年経ったころにはそれがピークとなります。
10年もたつとほとんどの人が弓返りをできるようになってしまい、関心も薄れてきます。
このように弓返りについては初級者から中級者への大きな区切りにもなる動作です。
時間が来れば自然にできるようになるとはいえ、3年目ぐらいの人は、自分だけどうしてできないのか、このままずーっとできないのではないかと不安に思うことになります。
私も3年から6年の間は同じ頃始めた仲間が弓返りするようになると、ずーと不安を抱え、手首を返したり、弦の返った角度に一喜一憂したものです。
再度、協調しておきますが、10年もたてば誰も問題にしないことなのです。
でも少しでも不安な期間を減らすために、ある程度知っておきたいことを説明します。
初級者から中級者への大きな区切り:弓返りのメカニズムと進化
正面で取懸けした場合、馬手の親指側は弓の内竹、人差し指側は弓の外竹に触れている状態です。これはおわかりですよね。
①打起しをして、大三にもっていくと親指は弓の内竹側から見た側木を擦っていきます。また、親指と人差し指の間の皮が擦れていきます。
これによって弓体に捻りが加えられて、弦を外側にまわす力、上から見ると反時計回りの力が加わります。
②人によっては、親指と人差し指の間の角見で内竹の右側を押す力を強調される方もおり、これにより同じように弦を外側に回す力となります。
③会から離れに移行するとき、会では頭によって妨げられていた、拳の位置が数センチ体の後ろ方向に向かいます。これにより、角見で押す力が続けばこれも弓体を回転させる力となります。
④離れ以降、弦はその回す力を受けて、弓体に直撃する方向ではなく、矢筈と弦はやや外側を円弧を描くように動いていきます。
そして、筈と弦が離れた後は、弦と弓体はその慣性により回転を続けます。
⑤弓手の手のひらが回転を妨げない限り、弓と弦は回って弓手の甲の方向に行きます。
弓返りの意味と成長:3年目からの不安と克服の道
大部分の初心者は弓を強く握ってしまいます。これは、弓を引く動作による力に自分の弓手側が負けないように押さなければいけないのです。
この時の押す力と弓を握る力は別なのですが、初心者は区別がつきません。
したがって弓体を捻る力は十分伝わっているものと考えられます。ただし、角見で内竹の右側を押すことまでは認識されていないと考えられます。
それでもこれだけで弓を返す力は十分にあるのです。弓を握りしめているので弦が体の真横ぐらいで止まってしまうのです。
多くの方がこのメカニズムになると考えられます。
その他の場合として次のようなことも考えられます。
とても非力な人の場合、弓手に全く力が入らないので、弓体を捻ることもなく、手のひらの中で完全に回ってしまいます。
角見で内竹の右側を押すことを認識されないと、全く弓体を回す力が働きません。このまま離すと弦と矢筈はそのまま内竹方向に行ってしまします。
内竹から僅かに側木側に振れたところで止まるでしょう。実際は、いつも内竹側で弦は止まるので、もともと内竹が的と反対側にあったとしてと考えるのが正しいのですが。
場合によっては、顔か手を弦で払うかもしれません。
このように初心者が弓返りをしないメカニズムも大きくいって二種類あるということです。
弓道の弓返りのための練習の仕方
「心配しなくても10年もやれば自然にできることですから。」と言っても何の慰めにもならないと思います。
以上のようなメカニズムで生じる弓返りに対して、単に「握りを緩めろ。」とか「角見を押せ。」とか、「親指を的に突っ込め。」と言っても、現象だけをとらえているので本人の役には立たないのではないかと思います。
生徒のほうも、人に言われるままに動作を繰り返すだけで、何のためにやっているのかがわからないからです。
本当は、ここに説明した弓返りのメカニズムがわかることが第一だと思っています。
その次は、その人の身体感覚になりますので、むしろ射場ではなく、弓だけを持って確かめた方がわかりやすいと考えます。
その上で、弓手の手の内を作ったときに、握らない手の内ができているか。つまり、射手の感覚の中に弓に触れるだけで握らない感覚を理解できるかが第二のポイント。
握らない感覚から大三に指を擦っていくときに、弓体に親指と人差し指の又のところで若干の捻りがかけられているが理解できるかが第三のポイント。正確に言うと弓が捻られているというよりは手の皮が捻られているのですが。
最後に会のときに角見で弓の内竹の右側を押している感覚を理解できるかが第四のポイントです。
このうちの第一のポイントは説明不要かと思いますが、この説明でわかりにくければ、弓道の本を読んで理解いただければよろしいかと思います。
第二のポイントは少し難しいので、弓手の手の内ですが、親指の腹と人差し指の側面をしっかりくっつけて、ここは会のときも離れのときも外れないようにしてください。
決して強く抑えろというわけではありません。この親指と人差し指、更には薬指と小指がくっついていますが、この空間に弓が入るのです。
決して握るのではなくこの空間の中に弓が収まっている感覚です。この空間が弓体と程よい大きさであれば、触れることはあっても握らない、下に落ちることがない空間ができるはずです。
第三のポイントは、この状態から弦が引かれると、弓体は親指と人差し指の間に強く接触します。そして大三を取ったときに親指と人差し指の間の手の皮が引きずられることがわかると思います。
それがわかれば、手元で同じことをして、弦を軽く引いて離せば弓は回転していくはずです。こういう感覚を理解していただくのです。
第四のポイントは説明不要でしょう。ここまで順番に一つずつ感覚を整理していけばわかってくると思います。
このようなことを自分の練習の中で取り入れていただきたいのです。これは身体感覚ですから一つずつ確かめながら習得するもので、いっぺんに的前でやろうというのが土台無理なのです。
弓道の弓返りについての理解と練習方法のまとめ
いろいろな記事とか質問欄を読むと、やはり弓返りの記事が多いので、私なりの経験を踏まえて、弓返りについて書いてみました。
私も弓返りでは苦労したと思っています。三段をいただいたときは当然のように弓返りはしませんでした。
その後、だんだん焦ってきて、練習するのですが、なかなか先輩たちのようにはいきませんでした。今となっては無駄な努力も相当しましたし、精神的にも良くありませんでした。
それに、教えていただいても、こうしろというだけで、そのメカニズムについてもわかりませんでしたので、反省を込めて今回書いてみたわけです。
そんなことを知らなくても、5年、6年目ぐらいになると自然とできてしまって、苦労したことを忘れてしまいます。
でもそれでは良くないのです。きちっとメカニズムを知り、身体感覚として、どこが擦れて、どこに接触して、どこが押しているかをわかれば、自分が不調になった時の対処も考えることができますし、人から言われても整理することができるはずです。
弓返りについては苦い思い出があります。四段を受ける前のセミナーで、当時、弓返りはできていたのです。
そこでセミナーの受講生が弓返りしなかったときの対処を先生に尋ねていたのを他人事にように聞いていたのです。ところが、自分の審査のときにまさか弓返りがしなくて。びっくりしたのを覚えています。
ぼんやりと聞いていた対処方法を思い出して処理し事なきを得ました。今から思えば、まだ弓返りが完全ではなく、緊張で手に力が入ったのでしょう。いつになってもこんなこともあるものです。
コメント